小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

一気読み「できなかった」マンガ

今週のお題「一気読みした漫画」

 

 ジャンプ世代の私にとって、大抵の漫画は一気読み。三国志、ゴルゴ13、こち亀ジョジョガラスの仮面ドラゴンボールなどなど(やはり20世紀だね)。超大作でも場合によってはマンガ喫茶で徹夜して一気読みしたものです。

 そんな中でも、たまに一気読みできないマンガも出てきます。最近では「キングダム」や「進撃の巨人」などがそうですが、内容の密度が濃く、また1コマ1コマに意図を感じるものもあり、考え出すと止らなくなります。そうなるとマンガだけに始末が悪い。延々と休みなく読み続けるため、情報量が飽和状態に達して、途中でかき氷を食べた時のように頭がキーンときて、続けて読むことを断念するときがあります。

 

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 なので今週のお題に反して、今回は「キーン」を味わい「一気読みできなかった」マンガを3点、あげます。

 

第3位 手塚治虫物語

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 手塚治虫の自伝なので、マンガで描くのは当然ですが(?)、よくもまあ細かいエピソードを拾い集めたもの。そして画が手塚治虫そのもの(笑)。生まれた時から亡くなるまで、手塚治虫の日常や考え方、そして創作の秘密が網羅されていて、盛りだくさんの内容です。上巻が494ページ、下巻が377ページもあり、文庫版のせいでもあるが1コマ1コマが詰まっていて、内容が余りに濃い。そしてコマの使い方も手塚治虫そのもので、ファンの心をくすぐるものになっています(言い方を変えると、「うるさいファンに文句を言わせない」作り)。これは一気読みできません。

 創成期における日本漫画界の動きもわかります。手塚治虫については毀誉褒貶もありますが、それをさし置いても漫画界における存在の大きさが描かれています。現代に続くクール・ジャパン」の先駆者として、日本文化の1分野を開拓した功績は余りに大きい。大げさと思われるかもしれませんが、日本歴史上の偉人の1人に挙げられると思っています。

 

第2位 沈黙の艦隊かわぐちかいじ

 

 かわぐちかいじのマンガは、1980年代前半の麻雀マンガ「プロ」や「はっぽうやぶれ」などの完成度の高い画力とストーリーに魅了されましたが(知っている人は少ないでしょう)、その後王道(?)のストーリーマンガに転向して1988年から連載を始めたのが本作品です。

 ストーリーは言わずもがなですが、単なる日米の陰謀の物語で地味な展開と思っていたら、戦闘シーンに入ると予想外にリアル。旧ソビエトの潜水艦「スコーピオン」との戦闘や、アメリカの第三艦隊を全滅されるまでの展開は単なる想像の域を超える緻密な作戦で、マンガではもったいないと思うほど(?)。その後も戦闘シーンだけでなく、先進首脳国の思惑や日本の政界再編、そして世界政府への胎動と、フィクションとわかりつつも、その緻密で現実に「半歩先を行った」ような内容はリアルに迫っています。読み進めるとまるで「ランナーズハイ」の状態になり、読んでいる途中で呼吸が苦しくなって、はっとして現実に帰ることの繰り返しになりました。

 コマ割りも見事。2次元のマンガ紙面で、3次元の行動を想像させる潜水艦を見事に描いています。特に印象に残っているシーンは、国連総会出席を阻止するアメリカ軍がやまとにミサイルを発射した時。艦上の海江田船長が潜望鏡越しにイギリスの原子力潜水艦の艦長・ストリンガーを見つめ、ストリンガーはその視線を見て「武者震い」する所。託せると見込んだ人物に自分の理想を託し、託された男は思いを理解しつつ、その覚悟と重さを全身で感じるところを、わずか2コマで表現しきったのは見事です。

 

第1位 気まぐれコンセプト クロニカル

 成蹊大学で安部前総理の同級生(!)が設立したクリエーター集団「ホイチョイ・プロダクションズ」が1981年から連載を開始して現在も続いている4コママンガ。長らく単行本にまとめていませんでしたが、2007年に前年までの25年分をまとめて発刊した1冊。

 連載当初は「何となくクリスタル」や糸井重里が注目された頃。そしてバブルになり、広告代理店を中心とする「ギョーカイ」に注目が集まりました。大手に負けじと「準」広告代理店の白クマ広告社が、得意先を相手に奮闘しつつ、泣き笑いの「業界あるある」をタブーなく(?)描いたもの。そしてバブルは弾け、バブル後の失われた10年など、当時の世相も交えて思い出させてくれます。

 4コママンガの1つ1つが懐かしく、また裏話も豊富で中身が濃い。そしてこれが977ページもあり、「一気読み」は到底無理。ちなみに2016年には「気まぐれコンセプト 完全版」が発刊されています。

 バブルの爛熟期に始まった「ホイチョイ3部作(私をスキーに連れてって・彼女が水着に着替えたら・波の数だけ抱きしめて)」や、「バブルへGo!」などでブームを巻き起こしたホイチョイ・プロダクションズのセンスが溢れる作品集。バブルの前夜からの四半世紀が、文化面から描かれて必見です

 

 

 それにしても今回の「お題」は間口は広い・・・・