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【あらすじ】
曲沃を支配する称は、晋王から分家された祖父が統一君主の座を狙っていたが、縄侯が先んじて周王から君主に認定されてしまい、不満が高じていた。称は勢力の拡大を模索すると、北方の狐氏が交誼を求め、2人の娘を称の子詭諸(きしょ)の嫁として送り届ける。占いによると、このうち1人が天下に号令する人物になると言う。
1人の娘が重耳 (ちょうじ)を産み、その前にもう1人が申生を産んだ。称は氏長の狐突に、申生を教育するように頼む。狐突は当初重耳の師となるつもりだったが申生に付いて、重耳には自身の子を仕えさせることにした。
周王室の疑念を払拭するため称が王都に送り込んだ士蔿(しい)は、半年後に周の動向を記した報告書を携えて戻ってきた。しかし報告書が余りに見事なため称はかえって危ぶみ、秘かに不鄭(ひてい)と趙公明・趙夙(ちょうしゅく)の親子を王都へ送り込んだ。果たして士蔿は権力闘争に巻き込まれて自由が効かず、危ういところで命を落とすところだった。
東方では斉に桓公が現われ南では楚が勢力を拡大し、曲沃の周辺もあわただしい。重耳は王子脆諸の子だが、才気闊達な兄の申生と弟の夷吾に挟まれ、目立たない存在だった。周囲の家臣たちは真っ先に申生に仕えることを望み、重耳に仕えるのは二の次と思われる中、趙公明の末子・趙衰(ちょうさい)は重耳に仕えることにする。
*重耳(ウィキペディア)
称は晋を統一するために、本家筋にあたる翼を攻めることを決意し、幸運をもたらしそうだと重耳を連れて行った。冬の翼城は氷の城のように堅く攻めあぐねていたが、重耳の部隊が突破口を見つけ、遂に難攻不落の翼城を落した。BC 679年、正式に称が晋の統一を果たし、重耳の祖父の称は満ち足りた思いで天寿を全うする。
称のあと献公として即位した父詭諸の下で、重耳は王子としての役割を果敢に果たしていく。王都では「子頽(したい)の乱」が起き重耳は出兵するが、この戦いの前に奇妙な占いがでた。それはこの戦いに勝つことは不吉を招くと言い、その者は戦いで得た捕虜にいると言うた。果たして捕虜の中に詭諸の愛妾となる驪姫(りき)がいた。驪姫は脆諸を取り込んで正夫人となったがそれで満足せず、自ら産んだ子を太子したいとの願望を抱くようになった。
そんな驪姫に優施という役者が近づいた。優施は実は翼の公子で、復讐で晋を滅ぼすために驪姫に近づいていた。驪姫は優施に取り込まれて詭諸に甘言で誘い、公子たちを中央から辺境に遠ざけようと工作する。評判の良い重耳は蒲という最も遠い場所に、弟の夷吾もその次に遠い領地へと飛ばされた。申生も既に首都ではなくなっている曲沃へと追いやられてしまった。
*父の詭諸(献公:ウィキペディア)
【感想】
19年に及ぶ放浪生活を経験し、苦難の末に晋の君主となると「春秋五覇」の1人に教えられるまでになった文公(重耳)を描いた作品。その物語は祖父の称 (武公)、更にその祖父から説き起こされる。 称の祖父は君主の子でありながら分家に出されてしまい、再統一して晋の君主となることを念じて亡くなった。そんな思いを知る孫の称は、策略を尽くして晋の再統一を成し遂げるが、その無理が祟ったのか、悪運が子孫たちに降りかかってしまう。
重耳の父脆諸(献公)も晋の勢力を拡大していくが、そこに「妖婦」驪姫が登場。称が滅ぼした翼の公子である優施が近づいて謀を巡らし、古代中国「あるある」の内紛につながっていく。その内紛に巻き込まれる重耳だが、本作品では成人になる前は兄申生と弟夷吾に挟まれ、目立たない存在とした。後に悲劇に見舞われる兄弟だが、重耳はその才能を内に秘めて、時が来るまでひたすら力を蓄えていく。
重耳は次第に才能と人柄より周囲から一目置かれ、砥いでいた牙が徐々に外に現れていく。しかし「敵」から見ると、真っ先に葬り去らなくてはならない危険な存在だった。父脆諸の愛妾となった驪姫が愛人の優腕に操られて、再統一された晋に内乱を招く。その手始めは、ライバルとなる公子たちを遠隔地に飛ばすこと。
時代は下って始皇帝が崩御した時。宦官の趙高が権勢を私(わたくし)にしようとして、始皇帝が後継者に指名した遠方にいる扶蘇宛ての遺詔を握りつぶし、死を賜る詔が偽造され扶蘇が自殺した故事に重なる。対して重耳は首都から届く情報を信用せず、命からがら逃げ出すことで、思わぬ人生を歩むことになる。
*驪姫(ウィキペディア)
主に名参謀や家臣を主人公に据える宮城谷昌光だが、本作品では珍しく王そのものを描いた。現時点で王を主人公にしたのは、時代は下って前漢の高祖「劉邦」と、後漢の祖「光武帝」だが、ともに生まれながらの王ではない。草莽から生まれた人物が人望を放つことで人が集り、やがては勢力を結集して建国する物語。
重耳は王子として生まれたが、やはり生まれながらの王ではない。劉邦や光武帝も及ばない苦難が、前途に待ち構えていた。
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