小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

19 地雷グリコ 青崎 有吾(2023)

1 地雷グリコ

 文化祭で一番人気の校舎屋上を使用する権利を賭けて戦う「地雷グリコ」。グリコの要領で先に46段登った方が勝ちだが、1 人3つずつ地雷を設置し、踏んだら10 段下がるルール。決勝戦は生徒会メンバーで合理主義者の(くぬぎ)と、1年生ながら勝負事にはめっぽう強い射守矢真兎(いもりやまと)。 

 「グリコパイナップルチョコレイト」が全て3の倍数なため、10段下がるルールを考えると地雷を設定する場所は12箇所しかなく、2人で地雷設置は6か所設置できるため、1/2の確率で地雷を踏むことが想定される。

 椚はそんな条件を読み切って、巧みな地雷設定を行ない序盤リードを広げていく。

 

2 坊主衰弱

 近所の喫茶店でかるた部の「出禁」を解いてもらおうとするだが、マスターは許さない。様子を見た射守矢は、百人一首の絵札を使った神経衰弱で勝負をつけようとマスターに持ち掛ける。最後に手札が多い方が勝ちだが、男同士のペアは手札に取れ、姫同士だと全ての捨て場にある札を全て自分の札に加えられる。但し坊主を引くと手札を全て吐き出さなくてはならない。

 ところがマスターは全ての札に印をつけていたため、優勢の中勝負が進んでいくが・・・・

 

 *デビュー作も高校を舞台とした作品で、本作品で「先祖返り」しました。

 

3 自由律ジャンケン

 椚から射守矢の存在を知った生徒会長の佐分利は、強引に生徒会に加入させるために「グー・チョキ・パー」にお互いに独自手を加えたジャンケンで勝負をつけようと提案する。但し独自手を正確に提示しないと空手扱い(勝負に参加しない)とされる。

 佐分利は「鍋牛(スネイル)」を設定し、隠された効果は次のジャンケンで後出しを可能とする。そして射守矢が設定した独自手「」の効果を佐分利は探りながら勝負を進めていく。

 

4 だるまさんがかぞえた

 因縁のある雨季田絵空とのSチップを賭けた試合をお膳立てされた射守矢は、雨季田と対戦する前に3枚のSチップを300 枚に増やすために、巣藤と戦うことにした。掛け声の数をお互い事前に入札して、多い数で歩く歩数が決まり、同じ数ならば掛け金は10倍になるルールだが、鬼役の「標的」は公園の入り口までの距離に相当する50(歩)までしか記載できない。しかし「標的」役の巣藤は抜群の聴覚を持ち、入札する数の画数を聞き分けることができ、「暗殺者」役の射守矢が書く数をある程度予測できた。

 

5 フォールーム・ポー力―

 射守矢は遂に雨季田との対決を迎えた。その勝負は「クラブ」「ダイヤ」「ハート」「スペード」の4部屋に、柄(スート)ごとに置かれた13枚のトランプを、手札3枚で手役を作り、争うもの。置かれているカードの法則を2人とも読み切って手役を作るが、3戦までは雨季田が圧倒的にリードする。最終の4回戦、射守矢はイカサマを仕掛けるも雨季田はそれを見抜き、高額のベッドに応じる。

 

*どうしても、こちらの作品が頭をよぎります。

 

 主要ミステリー賞を総なめにして、山本周五郎賞を受賞し直木賞候補にもなった本作品は、「特殊設定モノ」が多かった令和初頭のミステリーを象徴する作品と感じました。

 みんなが一度は経験した身近なゲームに1つ条件を加えることでゲーム全体の様相が変わり、そこから誰もが気づかない「攻略法」が生み出されていきます。

 更には短篇集全体で、見事な「コンセプト・アルバム」となっていることに気づきます。

 

 

18 世界でいちばん透きとおった物語 杉井 光(2023)

【あらすじ】

 ベストセラー作家の宮内彰吾が癌により61歳で死去した。女性関係が派手だった宮内は妻子がありながら大勢の愛人をつくり、そのうちの藤阪恵美との間には燈真という子供をもうけていた。

 宮内の死後すぐに、燈真のもとに宮内の嫡出子の松方朋晃から連絡が入る。宮内は生前『世界でいちばん透きとおった物語』というタイトルの小説を執筆していた形跡があるが、原稿そのものが見つからない。遺作として出版するために原稿を探し出したい、という。

 燈真は文芸編集者の深町霧子の助けを借り、宮内が死の直前まで交際していた女性たちや、交流があった編集者、評論家から情報を集めていく。すると、やがて宮内がかつて愛人名義で買った狛江の一軒家で最晩年を過ごし、原稿を書いていたらしいことを突き止める。燈真は松方朋晃とともにその狛江のー軒家に乗り込むが、2人の到着直前に何者かが家に侵入し、『世界でいちばん透きとおった物語』の原稿を焼却してしまっていた。

 後日、霧子は燈真が集めた情報を元に『世界でいちばん透きとおった物語』がどんな小説だったのかを推理する。その1年後、燈真が『世界でいちばん透きとおった物語』 というタイトルの小説を書き上げてデビューを果たした。

 

*「電子書籍化絶対不可能」の元祖です (^^)

 

【感想】~ネタバレぎりぎりまで「攻めて」いますので、ご注意ください

 前作の「逆転美人」に続いてこちらの作品の謳い文句は「電子書籍化絶対不可能」。こちらも何度か似た宣伝文句につられて読んだもの。そして本作品を読み進めると、「なんとなく、わかった!」

 ベストセラー作家の宮内彰吾がなくなって、愛人の子の藤阪燈真が遺作の謎に迫っていく。燈真は目に病気を持つため本はあまり読めない設定でもあり、父親に対する思い入れはあまりない。まあ愛人の子で直接父親と接する機会がないだろうから、それもむべなるかな。

 ただし燈真の視覚について、特徴ある説明が重なっている。まるで「特殊設定物」のようで、これならば何かトリックにつながると想像できる。そう予測して読んでいくと、宮内彰吾が京極夏彦から教えを乞おうとした話が登場した。京極夏彦はデビュー時から作品に特異な「キメ」があり、私はこれを知っていた。合わせて北山猛邦の有名な作品を思い浮かべながら、トリックを予測することができた。

 物語としては、まず亡くなった宮内彰吾の人物設定にクビを傾げた。愛人をたくさん作る人物が実は子煩悩だったという実像には、ついていけなかった。ストーリー的には親子の情愛が主軸なのだろうが、こちらは正直感情移入できず。

 主人公の燈真を支える役割の深町霧子は、新卒1年目で文芸部に異例の大抜擢を受け、 主人公燈真の母親(フリーランスの校正者)とー緒に仕事をする仲。文学的というよりも、仕事の1つ1つをキチンと片付けるような、凡帳面な性格に見受けられる。その上燈真に対しては、社会人とした責務とお姉さんとしての役割を併せ持った、魅力的なキャラクター。個人的にはNHK広島で2009 年に制作されたドラマ「火の魚」で、気難しい作家(原田芳雄)の担当編集者を演じた尾野真千子を思い出した。

 

  *ドラマ「火の魚」(NHK)

 

「世界でいちばん透きとおった物語」の謝辞に登場するA先生は、泡坂妻夫先生のことだと言われています。泡坂先生は既に20世紀に「電子書籍化不可能」な本をいくつか発刊しています。

 そして「電子書籍化絶対不可能」と言われた本作品ですが、続編の『世界でいちばん透きとおった物語2』は本作品とは異なるトリックを使い、見事電子書籍化が可能となりました。

 

【コラム】結果論で語る2026衆議院選挙

 

1 戦前の予想

 今回の衆議院選挙の結果は、私の予想からは大きく外れました。

 高市総理は自民党総裁選勝利後すぐに、公明党から「三下り半」を突き付けられます。日本維新の会との連立で何とか政権を担ったものの、その後も細かい失言が相次ぎました。それでも高市内閣の支持率が高い数値を保持できていたのは、私にとっては不思議な現象でした。

*これはこれで、私は今でも正しい判断だったと思います。

 

 衆議院解散を決断した胆力は見事でしたが、私には自民党に対して以下の懸念点があると思いました。

① 政治資金の不記載議員に対して、希望した候補者の全員に公認を出したこと。

高市内閣の高支持率に比べて、自民党政党支持率は低い数値のままだったこと。

立憲民主党公明党が「中道改革連合」として合流したことで、自民党の対抗馬として十分に見えたこと。

④ 余りにも急でかつ短期決戦。また寒波が例年になく激しく、投票率が期待できない。

⑤ 連立相手の日本維新の会が、このタイミングで3度目の「大阪都構想」を持ち出して大阪府知事及び大阪市長を辞任して再度選挙を行ったことで、自民党と亀裂が入るのではないか(残念ながら野党は衆議院選挙の争点に取り上げませんでした)

 以上より、事前調査では「自民圧勝」の予測が出ましたが、私は疑問でした。

 

2 理解の範囲外

 ところがふたを開けてみると、事前調査の勢いそのままに自民党が「歴史的圧勝」を飾りました。議員定数の2/3 を獲得し、憲法改正の発議も可能な議席を確保したことで、今後は「高市一強」時代が訪れるのでしょうか。

 

日本経済新聞

 

 対して最近勢いづいていた参政党国民民主党は、一定の議席は得たものの期待を下回る結果に。また小政党は議席が1か0に落ち込み、共産党も半減の4議席に減らしました。

 そして何よりも驚いたのは、野党第一党立憲民主党と、今まで自民党と組んでいた公明党が合流した「中道改革連合」の議席が、選挙前と比べて1/3 以下に減少してしまったこと。選挙前の予測では、自民党は旧公明党の支援が得られずに小選挙区で苦戦が強いられ、逆に立憲民主党は票の上乗せができる、と予測されましたが、そんな机上の「足し算、引き算」をぶっ飛ばす高市人気が吹き荒れました。

 実は私は、この「中道改革連合」のネーミングセンスは悪くない、と思ったもの。自民党を中心として、政治全体が「右傾化」して国民フアーストを調っている中で、政治の「中庸」を目指す方向性は、貴重な存在と思っていました。

 けれども私のそんな予想も、全て吹き飛んでしまいました。

 

3 結果論の感想

 そのためこれからは、「結果論」による私の感想になります(愚痴ではありません)。

 民主党政権で「決められない政治」が続き、その反動が「安倍一強」時代を生み出しました。政権当時は恣意的な人事や安倍首相を取り巻く人物への露骨な付度による不満もありましたが、力強い政権運営で押さえつけることに成功しました。

 ところが安倍内閣が退陣すると、自民党内の派閥抗争などで、政権の基盤が弱くなります。そして古くて新しい「政治と力ネ」問題が表面化し、石破内閣での解散・総選挙で自民党過半数割れに追い込まれ、「決められない政治」が復活しました。そこに「中規模政党」がキャスティング・ボードを握ることで自民党の鼻づらを引きずり回し、自由勝手なふるまいをしたかのように見えます。

 今回の選挙戦では、ほぼ全ての党が消費税の減税または廃止をスローガンにかかげたため、これでは選挙をする意味がないかと思いました。それでも各党は日本国のために大同団結をするわけでなく、私から見ると「鶏ロ(けいこう)となるとも牛後(ぎゅうご)となるなかれ」と、お山の大将を気取っているようにしか見えません。政党が多数化したため、テレビなどでの論戦も時間が短く響きの良い言葉に絞って主張し、政党としての政策の差別化がなされないように見受けられました。

 そんな反動が初の女性総理というだけでなく、多少の失言はスルーしても、軸がブレない言動に人気が出て、今回の結果に結びついたのかもしれません。またチームみらいが独自の、そして持続可能な政策を提言したことが、今回の選挙の収穫に思えます。

 

4 歴史は繰り返す

 「決められない政治」の象徴だった民主党政権時の重鎮たちは、今回の選挙で舞台から退場することになりました。「中道」を謳っていましたが、社会民主党共産党、れいわ新選組などの存在感が余りにも薄く、そのため「リベラル」に位置してしまい、その政策に鋭さが欠けた印象があります。但し厳しい言い方をすれば、(旧)立憲民主党は世代交代を果たすことができずに、10年以上前に政権保持に失敗した「亡霊たち」しか党の運営を任せられなかったことが、最大の敗因ではないかと思います。

 今回の選挙で中道改革連合は、野党第一党の立場から日本維新の会、国民民主党、参政党と「横並び」になってしまいました。他の3党はそれぞれエッジの効いた「ワン・イッシュー」を宣伝文句にしていますが、共に政権を担った経験のある旧立憲民主党、旧公明党とも「デパート」のような政策を並べていたため、有権者の心に響く運動を繰り広げるのは困難かと思われます。

立憲民主党についてはこの時期何度か投稿しましたが、危惧通りに残念な結果に至りました。この時は今回生き残った泉党首でした。

 

 けれども「歴史は繰り返す」。1986年の第ニ次中曽根内閣で大勝した自民党は、わずか7年後の宮沢内閣で行なわれた選挙で政権を明け渡す事態に追い込まれます。2005年に小泉内閣が行った「郵政選挙」も、その4年後の麻生内閣の選挙では、ついに民主党に政権の座を明け渡すことになりました。そしてその民主党政権。3年後の2012 年に、奇しくも野田内閣で行った総選挙で自民党に大敗して政権の座を明け渡しました。

 今回有権者は「政治と力ネ」の問題よりも、物価高対策を中心とする実行力を選択したかに見えます。但しこの大勝に慢心すれば、近い将来同じように政権交代は起きます。小選挙区制とはそのようなものであり、そのためにも今回小選挙区で惨敗した「中道改革連合」は、責任政党として政策の力を磨き、小選挙区でも議席が取れるようになって欲しいと思います。

 

 最後になりますが、今回大勝した自民党に対して、この言葉を贈ります。

 神明はただ平素の鍛練に努め戦はずしてすでに勝てる者に勝利の栄冠を授くると同時に、一勝に満足して治平に安ずる者よりただちにこれをうばふ。

 古人日く、勝って兜の緒を締めよ、と。

  連合艦隊解散之辞」 司馬遼太郎坂の上の雲」から抜粋