小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

日本最古のSF小説

 SF(Science Fiction)は定義があってないようで、現実と時間、空間を交錯させて、作家のイマジネーションを最大限に発揮されるジャンルと思います。私も子供のころは星新一の、意外にブラックなオチが多いショートショートから始まって、SFの始祖と言われる二大巨頭、「海底2万里」や「地底旅行」、そして見事などんでん返しに魅了された「80日間世界一周」のジュール・ヴェルヌと、「宇宙戦争」や「モロー博士の島」など、スピルバーグもインスパイアされたH・G・ウェルズ

 SF界のビッグスリーと呼ばれる「夏への扉」のロバート・Å・ハインライン、「私はロボット」のアイザック・アシモフ、そして「幼年期の終わり」「2001年宇宙の旅」などの深淵な作風を誇るアーサー・C・クラークの作品たち。そして日本のSFで外すことができない「漫画家」の手塚治虫小松左京の巨匠をはじめ、様々な作品を読みました。

*こちらの作品は、SF小説の金字塔にマンガが見事に融合した傑作でした。

 

 そんな中でも大人になって読み直して感心したのが「竹取物語」。「学問の神様」菅原道真が活躍した頃とほぼ同時期の9世紀後半から10世紀前半に成立したと言われる物語。月からやってきた「宇宙人」かぐや姫が、事情があって地球に降り立ち、地上で様々な混乱を巻き起こして、そして月に帰っていく。何とも見事なSF小説だと思っています。

 帝との交流のあと、かぐや姫が月に帰る運命を告げると、周囲がてんやわんやになりながらも、月から来た使者たちを迎え撃とうとする努力します。しかし不思議な光を浴びて身動きが取れなくなる様子などは、ハリウッド映画とも遜色のないストーリー。

 またかぐや姫から貰った「不死」の薬も、かぐや姫がいないこの世を憐れんで、手紙と一緒に月に一番近いと思われた駿河国にある山の頂上から燃やして、それが「富士」の由来になるなどのトリビアも含まれています。

   *月に帰るかぐや姫ウィキペディア

 その中でも一番唸ったのは、5人の公達からの求婚を描いた場面。かぐや姫の噂を聞いた当時の高級貴族たちがかぐや姫に求婚しますが、月の人間であり受け入れられないかぐや姫は、事情が言えないため無理難題を吹っ掛けるのはご存じの通り。子供の頃はかぐや姫の「断り方」が何とも高慢で、ちょっと貴族たちに同情したものです。

 しかしこの5人の貴族が、実は作品が作られた200年以上前の、西暦700年頃に実在した人物と知って驚きました

  「竜の首の玉」を求められて遭難する大納言大伴御幸は、同じ官職の同じ名前で実在します。

  「燕の産んだ子安貝を求められて崖から転落する中納言石上まろたりは、大納言石川麻呂。

  「火鼠の裘(焼いても燃えない布)」を騙されて買った右大臣は阿倍みむらじは、阿倍御主人

  「仏の御石の鉢」をごまかして持参した石作皇子は、石作氏と同じ一族の左大臣多治比嶋

 そして東方楽土にある「蓬萊の玉の枝」を求められるも、探すために出航することなく、財力に任せて偽物を作りあげた車持皇子。一瞬竹取の翁も本物と思うも、職人が未払いの代金を請求したために露見します。対して車持皇子は職人たちを逆恨みして厳しい仕置きする、一番の悪人として描いています。

 この人物の正体は藤原不比等。母方が車持氏出身で、「皇子」とあるが、不比等天智天皇落胤の噂は、存命当時から周知の話でした。

 そして何より、この作品が作られたのが、先に書いた藤原不比等の子孫にあたる藤原氏が全盛期の頃で、いわゆる摂関政治が始まった時代。いくら200年以上前といっても、わかる人にはわかるはずで、権力者にご注進する人もあったかと思います。そんな中、このような作品が今から1000年前に発想して、そして作られたのは驚きです。そう考えると、江戸時代に幕府の統制下の中、舞台を南北朝時代に変えて当時の事件を訴えた歌舞伎の「忠臣蔵」のような、現在でも余り見られない見事な「政治風刺」の物語と言えます。

*そのストーリーは、現代でも生き続いています。

 

 作者は不明。一番有力な説は古今和歌集の編者でもある紀貫之ですが、いずれも藤原氏との権力闘争に敗れた貴族と言われています。

 考えてみれば「天孫降臨」の日本だけでなく、各国にある天地創造の「神話」もSF小説のようなもの(ノンフィクションと言う人もいるでしょうが)。そう考えると、世界最古の物語のジャンルと言えそうです。

   

今週のお題「SFといえば」