小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

小説で読む戦後日本経済史⑦ リーマンショックとアベノミクス(2009年~)

1 リーマンショック

 リーマンショック・クライシスが起こった2008年末から、世界同時不況が進行する。各国ではその後もドバイショック、欧州ソブリン危機(欧州債務危機)、さらにはギリシャ経済危機や米国債ショックなどが起きた。その影響は日本にも及び、日本市場にも混乱をもたらし、派遣労働者の大量解雇が深刻化した。

 対して中国が高成長を続け、GDPは2010年に中国に抜かれて日本は2位から3位に転落した。(落合信彦「小説サブプライム」)(真山仁「レッドゾーン」

 そして、2011年3月11日に発生した東日本大震災福島第一原子力発電所事故による経済の影響は大きく、高度経済成長期の「負の遺産」を浮き彫りにしている。(黒木亮「ザ・原発所長」

 

2 電子立国の崩壊

 2000年から凋落傾向が続いた家電業界が、断末魔とも言える悲鳴を上げる。三洋電機に続いて「亀山モデル」で世界を席巻したシャープも急激な市況の変化についていけず、経営権は外資に渡った。そして戦前からの経済界の雄で、過去経団連会長も輩出した東芝も、経営悪化を隠蔽するかのような経理操作で回復のつかない状態に陥り、会社を切り売りして生き延びることになった(江上剛「病巣」)。

 対して家電販売店は大型量販店が覇権を握り、長年家電メーカーを支えてきた「町の電気屋さん」は危機に陥る(江上剛「家電の神様」)。

 

3 「アベノミクス

 2012年暮れに首相に就任(復帰)した安倍晋三は、「大胆な金融緩和」・「機動的な財政政策」・「民間投資を喚起する成長戦略」という3つの政策を柱とした「アベノミクス」を推し進め、低迷が続く日本の経済を復活させようと試み、半ば成功させた。急速な円安・株高が起こり2013年3月には日経平均株価リーマンショック以前の水準に戻った。

  



4 アベノミクスの明暗

 2014年4月1日から消費税増税が施行され、消費税率が5 %から8 %となったが、国民の消費が再び停滞したために、安倍首相は2015年に予定されていた10 %への消費税再増税を先送りされた。

 アベノミクスの効果は大企業を中心に現れているが、中小・零細企業にはその効果は一部を除いていまだ波及してはいないと言われ、また中央と地方の格差を訴える声も大きい。(黒木亮「島のエアライン」阿川大樹「D列車でいこう」

 また円安のおかげで成果を上げ、外国人投資家による日本の不動産買いは着々と進んでいる。一方安倍政権成立後、貿易収支は赤字に転落し、3年連続で史上最大の貿易赤字を更新している。

 

5 「コロナ」

 アベノミクス戦略の1つであった観光立国の推進。東京オリンピック起爆剤に外国からのインバウンドを目当てに観光・サービス業界の拡大を狙い、その途上までは成果を上げていたが、コロナの世界的感染により全てが裏目に出た。観光客の来日を禁止し、国内の旅行も一時制限され、オリンピックにあてこんで改装や新築をしていたホテル・旅館業界は大打撃を受ける。また飲食業もアルコールを提供する店を中心に自粛が叫ばれて、対面が必要な業種に与えたダメージは計り知れない。

 反対に家庭内での料理や惣菜、宅配業。そしてDIYや以前から売上を伸ばしていたネット通販などの売れ行きは過去最高を記録して、経済構造に大きな断層が生じてしまった(黒木亮「アパレル興亡」)。

 そしてダメージを受けた業種への一時金や一般国民への給付金など、大規模な財政出動が繰り返し行なわれ、東日本大震災から続いた財政赤字の拡大が、更に加速度を増して過去最高を更新している。

 

 「経済学者が10人集れば、11の処方箋が提示される」と言われる。

 過去を見渡しても、現状の危機に対して参考になる処方箋は見当たらない。その場その場で最善の手立てを行なうしかないが、それが本当に最善の手であったかは「結果論」でしか判明しない

(データはウィキペディアから引用しています)