小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

18 小説サブプライム 落合 信彦 (2009)

【あらすじ】

 親が家を売って出て行き、東大法学部の入学式前日に路頭に迷った荒木大河。公園で野宿しながら夜働ける職を探して、あるバーで雇われることになる。ところがそこのマスターは、以前大手都市銀行に勤め、ニューヨークで「伝説のディーラー」と言われた男だった。末期癌に冒されていたマスターに才能を見出された大河は、マスターの「遺志」によってアメリカでの活躍の舞台が用意される。

 「生き馬の目を抜く」ニューヨークで投資会社を設立した大河は、ITバブルから、9.11テロ、エンロンの破綻、サブプライムローンからリーマンショックに至る世界金融危機の時代を、情報の収集と取捨選択を厳しく律して行い、目の前の「安易な」利益を疑いながら投資を続け、まれに見る「連戦連勝」の活躍で会社を発展させていく。

 

【感想】

 アメリカの金融市場を描くならば黒木亮がその経歴からも適当と思ったが、別の小説も数多く取り上げる必要もあり、また本作品も「内幕」を知るのに相応しい内容を備えているため、「毀誉褒貶が激しい」落合信彦の作品を取り上げた。

 グリーンスパンFRB連邦準備制度理事会)議長は、「通貨マフィア」の大物、ポール・ボルカーの後を受けて就任した。前任のボルカーは、ニクソン・ショックからプラザ合意までの通貨支配を影で演出し、当時のレーガン大統領をも凌駕する存在感が(実績だけでなく、2メートルを超えるその長身と禿頭からも)あった。FRB議長が交代した時は、レーガン大統領が煙たがったためとも言われて、グリーンスパンの存在感は乏しかった。

 但しグリーンスパンは、就任直後に起きた「ブラックマンデー」を無難に切り抜けたことで信用を得て、以降5期連続という記録的な期間、FRB議長を務め「金融のマエストロ」の異名を持つまでの存在になる。その方針は市場放任主義で、貿易赤字に苦しんでいたアメリカ経済を安定させ、長期に渡る好景気を演出することになる。FRB議長就任時から生まれた新しい金融商品デリバティブ」に対しても、CFTC(連邦商品先物取引委員会)議長のブルックスレイ・ボーンを中心とする規制をすべきとの意見に対して「市場に任せる」態度を貫く。そして決して言質を取らせない物言いで市場関係者を幻惑し、また反対陣営を失脚の憂き目に誘う「権謀家」でもあった

   アラン・グリーンスパンウィキペディアより)

 

 2006年までFRB議長を務めるも、その翌年に起きた世界金融危機に対して、デリバティブに対する規制を疎かにしたことが原因の1つと言われたが、本作品ではその点をかなり厳しく追及している。グリーンスパンはともかく、エンロンの社長やブルックスレイ・ボーンCFTC委員長、リーマンブラザーズの経営者などとの交流も交えて、ルービンやサマーズの歴代財務長官の消息も伝えながら、大河がニューヨークの金融市場で繰り広げる活躍を描いている(・・・・・本作品からの脱線が長くてすみません)。

 それは大河の若き日の生活に1章を割いて、以降はその過去に振り返らない構成が、本作品の内容に合って効果的になっている。その人生観と性格から、共同経営者や社員との出会いや管理の仕方、情報を収集する人間関係、生涯の伴侶とのなれそめなどにも影響して、まるでアメリカ金融版の「フォレスト・ガンプ(一期一会)」を見ているかのよう

 あまりにも見事な大河の生き様。毀誉褒貶が多い作者だが、日本人のアイデンティティを感じさせながらも、1つの章を除いて日本人を意識させない描き方は(今回余り触れなかったが)見事。

 それにしても、「サブ・プライム」(優良(プライム)より下位の層)の名前は余りにも直截的だなあ・・・・

 

落合信彦の作品を最初に読んだのは、こちらでした(1977年初刊)。