小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

20 アパレル興亡 黒木 亮 (2020)

【あらすじ】

 田谷毅一は地元山梨から上京したい一心で、高校卒業後にツテを頼って東京・神田の小さな婦人服メーカー、オリエント・レディに入社する。終戦から10年足らずで既製服メーカーが「つぶし屋」と呼ばれてさげすまれていた時代。田谷は自転車の荷台にたくさんの商品を積み、東京中の小売店に営業をかける。

 持ち前の才覚と負けん気が認められ、北千住の洋品店、羊華堂(現イトーヨーカドー)の伊藤雅敏氏ら小売店幹部の寵愛を受ける。会社も高度経済成長と既製服の普及の波に乗り、日本を代表するアパレル企業へと駆け上がった。80年以上に渡るファッション業界の栄枯盛衰のドラマを描く。

 

【感想】

 黒木亮作品が続く。「鉄のあけぼの」も含めて、他業種なのにいくつも精緻な作品を作り上げる。そのためか作者曰く、取材費がかかり過ぎて、大半の作品は元が取れないという(^^)

 主人公のモデルは名門婦人服メーカーとして知られた東京スタイルの中興の祖・高野義雄(これだけの人物だが、ネット上では情報を消している)。人並み外れた努力と才覚で会社を成長させる。そして40代でトップに立った「田谷」は、その後約30年間、「絶対君主」として君臨する。

 高野が白といえば、何が何でも白。社員は高野の前で直立不動。そして顔色をうかがう社員ばかりになり、社内は物言えぬ空気に支配される。営業マンは地味なスーツ・ワイシャツ・ネクタイ姿で統一され、仕事中の私語は一切禁止と、アパレル業界のイメージとは一線を画する。ちなみに実際は、営業マンがデスクに座っていても「圧」がかかったそうで、かなりな「ブラック」だったらしい。

 

  

  *プレジデントオンラインより

 

 戦後10年ほど経った1955年からバブル景気までは、婦人服といえば、どれだけデパートに食い込むかが営業の主流で、高野のそのようにして実績を上げて出世してきた。ところがバブル以降、デパート・百貨店の売り上げが急減し、アパレル業界も変化が求められる。デザインも消費者は目が肥えて通り一遍の「ブランド」だけでは通用しなくなる。ところが「オリエント・レディ」は新しいものにチャレンジせず、優秀なデザイナーほど会社から排除するような状態に陥る

 新進のメーカーは自由な発想で、社風も「オリエント・レディ」とは正反対。実際に高野義雄が2009年に死去した後の2011年に、サンエーインターナショナルと経営統合するが、社風が全く異なり、経営統合の効果が疑問視されたが、現実にはサンエーインターナショナルが吸収した形での経営が続いている。高野の旧態依然とした経営方針は、高度経済成長期までは効果があったと思うが、一番時代の変化に敏感であるべきアパレルメーカーが、時代についていけない存在となってしまう。

 そして2002年、「村上ファンド」が東京スタイル株を買占めて筆頭株主となる。そして筆頭株主を背景に、当時予定していたファッションビルの建設を中止し、その資金を使って自社株買いを行うこと要求する。会社との委任状の獲得合戦となり、結局は個人投資家過半数が会社側支持に回ったため、村上ファンド側の敗北となった。しかし日本的経営に警鐘を鳴らすと共に、業界に君臨した企業及び社長の落日を象徴する「事件」となった

 アーノルド・パーマーを取扱い、CM戦略にも秀でていたレナウン。ラルフローレンとの取引を「奪取」することに成功したオンワード樫山バーバリーと提携した三陽商会東京スタイルのライバルたち。そして新興企業ながら成長したワールドやサンエーインターナショナル。

 更に時流に乗ってアパレル業界を「疾風」の如く席巻したユニクロやZOZO。一時の覇者が思いがけないスピードで凋落し、新興勢力が覇権を担う。文字通り「流行り廃り」のある商品を扱う業界の、80年に渡る「戦国乱世」を見事に紐解いてみせた。

 

  

 *ダイアモンド・オンラインより

 

 ~次回からは「経済小説(電機製造・IT業界編)」に移ります。