小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

20 病巣 巨大電機産業が消滅する日 江上 剛 (2017)

【あらすじ】

 日本を代表する総合電機メーカー芝河電機。PC部門で実績を上げて社長にのし上がった南は、会長になってからも会社に君臨する。2002年入社の若手、瀬川大輔は、赴任先のミャンマーで、社命の名のもとやむなく赤字受注した発電プロジェクトをめぐる社内ルール無視の会計処理に異議を唱えたことで、経営監査部勤務を命じられる。

 瀬川は内部告発をきっかけに、権力者南会長のお膝元である基幹部門PCカンパニーが危機的状況であることを知るが、告発した社員は瀬川に後を託して自殺してしまう。PCカンパニーだけではなくその他のカンパニーでも粉飾決算が横行していた事実をつかみ愕然とする瀬川。やがて買収した原発企業EECの巨額損失が発覚し、芝河は経営危機に陥る。

 

【感想】

 芝河電機のモデルは東芝。石坂泰三や土光敏夫などの経団連会長を輩出した日本経済界の雄。そして私も一度、就職活動でお邪魔したことがある。その時はバブルの直前だったせいか、社員の皆が生き生きと仕事をしている印象を受けた。志望する業界が違ったので、最終的には「縁が無かった」が、知人で就職した人も何人かいた。

 そんな社風から、同業他社から「公家集団」と長らく言われて来たが、東芝初の非東大(慶応大卒)で重電部門ではない半導体分野で活躍した西室泰三が社長に就任して(1996~2000)、「チャレンジ」と呼ばれる強引な営業目標を「強要」して後の東芝の経営危機の「基礎」を築いた。なお西室は財界の「肩書きコレクター」と呼ばれ、後に日本郵政の社長となったが、東芝の不正会計が問題になると、突如入院してそのまま社長の座を退いた。

   

西室泰三(左:日本経済新聞)と西田厚聰(右:テレビ朝日

 

 その後西室の子飼いとしてPC部門で実績を上げた西田厚聰が社長に就任(2005~2009)。今度は「ストレッチ」と称して業務改善を「強要」して、不正会計に拍車がかかる。サムプライムローンによる世界不況で赤字となり会長に退くが、後任の社長と激しく対立していく。そんな中、東芝の中核部門である重電の原子力が、福島原発の事故の影響により経営に打撃を与える。さらに2015年には、子会社ウェスティングハウス・エレクトリック・カンパニー(WEC)の巨額減損処理も明らかになった。同年には巨額損失と粉飾決算より東証2部に降格する。

 本作品に戻ると、粉飾決算に対して証券取引等監視委員会も内偵に動き始め、このまま自浄作用を発揮できないと芝河電機は消滅する恐れを抱いた瀬川は、同期である会長秘書の北村、社長と同じ大学・漕艇部の後輩で営業担当の宇田川、そして唯一の女性であるるり子、この同期入社4人が「チーム」を組み、証券取引等監視委員会に所属していた北村の同窓生吉田に内部告発の資料を「リーク」して、長年に渡る不正が、白日の下にさらされる。

 ここで会社の危機を痛感して行動を起こす同期「4人組」は印象深い。金融腐蝕列島―呪縛」でモデルになった、第一勧業銀行の総会屋利益供与事件で活躍した若手改革派の名称。その後も社内改革に奮闘するが、みずほ銀行に統合された後に居場所はなくなる。その4人組の1人が、作家江上剛。情念は本作品の紙面から溢れ出るほどの熱量を感じる。

 経営陣は「チャレンジ」とかけ声をかけるが、その内容に具体性はない。その中身を自分で解釈し行動することが「日本型経営」の中で優れた社員とされてきた。但し具体性がない方針は結局「砂上の楼閣」となる。そのためには、もしくはそんな「圧力」を一時的にもかわすためには、「自分で」不正に手を染めることになる。こうして会社全体に「負の連鎖」が蔓延していく。

 本作品を読みながら、会長と社長の対立などから山崎豊子の「沈まぬ太陽」、高杉良の「広報室沈黙す」、そしてJR西日本福知山線脱線事故の原因となった経営陣を思い出した。

 

*次回からは、「銀行・証券・保険業界」をくくります。