小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

小説で読む戦後日本経済史⑥ ITバブルと構造改革(2000~2008年)

1 ITバブル

 2000年頃から「失われた10年」はやや回復基調に移る。BRICS諸国が台頭し、それらの経済発展に牽引される形で外需が伸びたこと。規制緩和や金融緩和による経済活性化。IT化の普及による企業経営の効率化やIT関連産業に代表される新興産業の隆盛などによる(大下英治「狼たちの野望」)。金融機関の財務がようやく持ち直したこと。そして世界的にインターネット関連の株が急上昇し、インターネット・バブル(ITバブル)が発生した。しかし世界的にも連邦準備制度理事会の利上げやアメリカ同時多発テロ事件によってITバブルは崩壊した(清水一行「ITの踊り」)。

 

2 構造改革

 2001年には小泉内閣の聖域なき構造改革が始まり、竹中金融行政に迫られ都市銀行は3大メガバンクに統合し、不良債権問題の処理は進んだ(高杉良「金融腐蝕列島」江上剛「小説金融庁」)。しかし依然としてデフレーションは克服できず、日本銀行ゼロ金利政策から量的金融緩和に踏み切ったが、効果が出るのは、いざなみ景気の終盤になってからであった。当時、ノーベル経済学賞受賞者である経済学者のクルーグマンは「日本政府はインフレターゲットを導入すべきだ」と主張したが、デフレ克服の前例がないため取り入れられなかった。(細野 康弘「会計監査」高杉良「虚像 覇者への道」

  

 *小泉首相竹中大臣(プレジデントオンラインより)

 

3 労働者不足

 2002年ごろから円安を背景に好調な輸出系大企業や、外資による活発な設備投資、さらに日銀による量的緩和政策により、中小企業の倒産件数が大幅に減少し、下請け企業や内需企業でも過去最高の売上高を記録する企業が現れた。こういった業績の好調や労働者の高齢化から、製造業で労働力不足が叫ばれ、景気拡張期が続いた。この景気拡張期間はイザナギの妻のイザナミからとり、いざなみ景気と呼ばれた。

 

4 実態なき景気回復

しかし、一方で成長率が2 %前後であったことから、ダラダラ陽炎景気とも呼ばれており、大半の国民にとって「実感なき景気回復」と思われた。早期退職などの高齢労働者の人件費削減、労働の非正規雇用の拡大が賃金低下を促し、内需の本格的な成長には至らなかった「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富がこぼれ落ち、経済全体が良くなる」と考えた「ダム論」は実現せず、2008年にはプロレタリア文学を代表する小林多喜二の「蟹工船」が突然のブームとなった。(北沢栄「小説・非正規」

 

5 電子立国の凋落

 そして日本経済を牽引してきた家電業界も厳しい局面を迎える。新興国に追い越されて、かつてのアメリカのような立場に追い込まれる。2000年をピークにその後10年で売上は半減し、戦後の貧しい時代から様々な伝説を作りあげて世界を席巻した家電業界が、凋落していく。松下幸之助の義弟井植歳男が創業した三洋電機が深刻な経営危機に陥り、パナソニックの完全子会社化をいう結末で収束する(楡周平「異端の大義」)。

 

6 「ヒルズ族

 2005年6月に商法が会社法に変わり、企業の透明性、社会的責任がより求められるようになり、上場企業はこれまで以上の株主を重視した経営が求められるようになった。契約社員、派遣労働に象徴される非正規雇用の低賃金労働者が増加した一方で、ヒルズ族が持てはやされたこともあり、格差社会が話題となった(堀江貴文「わが闘争」)。好景気であるといわれていた東京でも低所得層が増加し、2006年末に東京都が実施した福祉保健基礎調査によると、年収500万円未満の世帯が初めて過半数を突破した。

*こんな本もブームになりました。

 

(データはウィキペディアから引用しています)