小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

5 もろびとの空(三木城) 天野 純希(2021)

2021

【あらすじ】

 赤松家の流れを汲む名門、別所家。播磨国の入り口に位置する三木城を居城とし、勢力が隣接する織田信長に臣従していた。叔父の別所吉親と重宗を後見人として、別所長治が若くして家督を継いでいた。

 

 しかし方面司令官の羽柴秀吉が傲慢な態度を示すと、織田家から毛利家に鞍替えを思う武将が増えてくる。筆頭家老の吉親は出自が卑しい秀吉の配下になるのは、別所家の沽券に関わるとして離脱を主張する。威勢の良い声が衆を決し、別所家は織田家を離反し、秀吉と戦うことになる。

 

 農家の娘で16歳になる加代は、同じ年のと年頃の話をしながら平和に暮していたが、織田家の来襲で状況が一変する。菊の家では両親と菊の恋人が殺され、菊は足軽に襲われているところだった。加代が習い始めた薙刀で必死の思いで菊を助けるが、菊はショックの余り加代の目の前で自害してしまう。そして父は織田軍を食い止めるために戦死し、加代は幼い妹と弟を連れて三木城に逃げ込んだ。

 

 加代は女武者隊に組み入れられていた。その指揮をするのは、筆頭家老吉親の妻、。波は管領も務めた畠山家の出身だが、没落して落剝した中で、名門の血を求める吉親から嫁の話が来る。戦いが日常の河内から、民が平和に農作業に励む播磨に来て、平和を愛する吉親と共に、波は播磨国を守ろうと決意していた。

 

 秀吉は支城を次々と落とし、三木城を孤立させた。別所吉親の反撃は全て裏目に出て、以降守りに転じてしまった。妻の波は毛利の援軍に合わせて果敢に城の外へ討って出るが、竹中半兵衛の策略に嵌まり、別所軍はまたも大敗してしまう。城主別所長治はこの姿を見て、兵糧も限界と感じて降伏を決意するが、その評議の前日、負けを認めない吉親によって長治は監禁されてしまう

 

  *別所長治(ウィキペディアより)

 

 吉親の指揮によって、希望のない籠城が続けられた。兵糧も底をつき、鼠などの生き物や雑草の根も食べ尽くしたが、それでも吉親は負けを認めず毛利の援軍を待った。そして民たちは遂に、人肉を食す事態にまで追い込まれてしまう。これを食しても人間と言えるのかと自問する加代。しかし日頃から目をかけている蔭山伊織は、自らが生きることが一番重要だと諭す。

 

 羽柴方の忍び、ゆきが別所長治の監禁先に潜入して降伏を説く。別所長治は、別所一族の命と引き換えに、城内の民を放免する条件で降伏に応じるが、あくまで降伏に応じない吉親が暴れる。妻の波の説得も応せず、遂に家臣によって命を奪われる

 

 波はわが子3人を自ら手をかけた後、自害、別所一族も全員自害して三木城は落城した。蔭山伊織は刀を売りその金で道具を買い、加代と共に田畑を耕す生活を始める。そして加代は妹と弟を立派に育て、生まれた娘に亡くなった友の名、と名付けて、平和が戻った三木で家族と一緒に暮す生活を送ることになる。

 

【感想】

 秀吉が中国方面司令官となって、調略により播磨を平定したが、別所家の反乱によって自らの責任で城攻めをした戦い。途中荒木村重の反乱も重なり、平定まで2年の年月を要してしまったが、その後鳥取城の兵糧攻め高松城の水攻めと「城攻めハットトリック」(犠牲になった方及びその子孫の方にはご容赦)と言える城攻めの最初となった戦い。三木城では2年だが、鳥取城では3カ月、そして高松城では1カ月半と格段のスピードを上げて、天下取りへの「ホップ・ステップ・ジャンプ」となった(重ねてご容赦)。

 

*同時期に起こった有岡城での荒木村重の反逆も、最期は巻き込まれた人たちが犠牲となりました。

 

 但しこの別所家の反乱は、秀吉は初めての「方面司令官」としての意気込みが過ぎたのか、それとも病気の竹中半兵衛と、まだ家臣となって間もない黒田官兵衛の「端境期」となったのか、「人たらし」と呼ばれた秀吉らしからぬ失策とも感じられる。本作品でも「播州武者」の頑固な性格に手を焼く様子を綴っている。竹中半兵衛宇喜多直家の臣従に対して、事前に信長に報告し了解を得るよう「遺言」したのに反して、勝手に本領安堵を認めて信長の怒りを買うなど、当時の秀吉には焦りがあったように思える。

 そんな三木城の攻防だが、本作品は秀吉と対峙した別所側から描いている。主人公は農民の加代。戦に巻き込まれて友達と父を失い、籠城して食事もなくなる悲惨な状態に陥る。対して籠城を決めた別所吉親。最初は平和を愛し妻を愛し、別所家を思う姿が描かれるが、自分の過ちを認めないがために、主君長治の意見にも従わず、民を犠牲にしてまで希望の見えない戦いを続けて行く。

 恐らく作者も「それ」を念頭に置いて描いたと思うが、吉親の強情な、自分で冷静な判断を下せない様子は、太平洋戦争の軍部首脳とそっくりに見える。毛利軍の援軍に頼り続ける姿は、精神力や「神風」に頼る軍部首脳と同じである。民の代表である加代は、偉い人は「始めたんやったら、ちゃんと終らせてください。まだ生きている人たちまで、道連れにせんといてください」と看破する。そして最後に降伏を決意する別所長治は、あくまで戦争継続を主張する家臣に「耐え難きを耐えてこそ」と呼びかけ、「三木という土地そのものが滅びるわけではない」と語る。これは終戦詔勅そのものである

 籠城した人々の人生をさりげなく触れながら描く三木城の戦い。結果は既に明らかなので、そんな人生が破局に向かっていく様子がやりきれず、途中結城合戦を描いた悲劇、「天下の旗に叛いて」を思い出した。本作品は最後に、主人公の加代が、力強く生きる様子が描かれていることが救われる。

 

 

 よろしければ、一押しを <m(__)m>