小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

19 治部の礎(石田三成) 吉川 永青(2016)

【あらすじ】

 父と兄は近江の地侍浅井長政に仕えていたが、石田三成は寺の小姓時代に、浅井の後の領主となった羽柴秀吉から才気を認められて、近臣に取り立てられる。本能寺の変が起きると、秀吉は三成を、畿内の武将の筒井順慶に派遣する。急な大役に驚く三成だが、光秀配下の順慶に理を説いて味方に取り込み、兵糧500石を受け取ることに成功し、秀吉からオ覚を褒められる。

 

 光秀を倒した後は、柴田勝家と対立が避けられなくなる。今度は勝家の背後を脅かすように上杉景勝に文を送る役目を任されるが、柴田勝家が動くも上杉家は動かず、秀吉もそれを気にする様子もない。賎ヶ岳で勝家が攻め込むと、三成は急いで留守の秀吉に急を知らせると共に、秀吉は軍勢を戻すと信じて、田植えの準備があり嫌がる農民たちに、後で10倍にして返すと尻を叩いて、食事を準備させて兵を待ち構える。

 

 勝負時と見た秀吉は子飼いの加藤清正福島正則ら「七本槍」を敵に向かわせ三成も続くが、敵と戦う姿を見て足がすくみ、清正や正則のような満足な槍働きができなかった。 また上杉家が動かなかったのは周囲の徳川や北条の動きもあったためで、それも秀吉は承知済だった。自分の能力に限界を感じる三成だが、秀吉は三成に清正と同等の三千石を褒賞として与える。戦場の戦いだけではない外交や兵姑などの働きも認めてくれた秀吉に、三成はやる気を取り戻す。

 

 堺奉行に任命された三成は、対立する商人たちに対して、朱印状を用いて外国との貿易を認める「利益」をエサに心服させる。そこで秀吉に更に認められて治部少輔に叙任され、近江国水口4万石の大名に封じられる。その後九州征伐で島津家を降伏に追い込むが、敵の家臣が義に背くと抵抗の姿勢を示す姿を見て、三成はつまらない義と断じる。

 

  石田三成ウィキペディアより)

 

 秀吉は天下人となると、徐々に自己抑制が効かなくなる。秀頼可愛さの余り甥の秀次を家族もろとも葬り、千利休を増長したとして自害させ、更には明国征服へと野望は広がる。黒田官兵衛が、弟の秀長が、そして三成も秀吉の暴走を止められない中、家康は笑みを浮かべて賛意を表す。秀吉の暴走に疑問を呈する三成に対して黒田官兵衛は 「お前は正しい。但し正しすぎる」と難詰し、不気味な笑みを浮かべて賛意を表わした家康は「それを御するのがお主の役割だろう」と嘆く。

 

 その秀吉が亡くなり、天下は家康へと移るが、三成はそれを阻止しようと動く。関ケ原の戦いで10万、上杉や佐竹などを合わせると17万もの兵を味方につけて戦うが、家康に敗れてしまう。囚われて家康の前に引き出された三成は、「天下人は正しい道を、乱れた世を一新し、戦なき世を作り上げる。世を統べるためには、自分を顧みてはならない。己が身を捨てるようでなければならない」と訴えた後、処刑される。

 

【感想】

 石田三成は、大体が秀吉の威を借り自分の野望を果たそうとする「悪役」で描かれる場合が多い。そんな中で司馬遼太郎の「関ケ原」では理想に燃える「官僚」として描いた。そして本作品でも誤解を受けやすいが豊臣家を、そして日本全体を考えて、毀誉褒貶も甘んじて受ける姿を描いている。

 但し私の読み方が違うのか、高松城の水攻めで三成が黒田官兵衛を「主君の懐を考えないやり方」と非難しているが、賤ヶ岳の戦いでの「大返し」の時に、三成は農民から法外の値で食料を準備させている。また三成は堺奉行の時、洪水に対して水の浸入を防ぐ土嚢がないため、米俵を使って急場を凌いだ挿話もあり、「金に糸目をつけない」判断を行なっている。そして忍城の水攻めは、明らかに高松城の水攻めを意識したもの。

 

  

 *忍城攻めを描いた映画「のぼうの城」では敵役だった石田三成大谷吉継長束正家を主人公とした小説が、ブログで偶然(?)並びました。上地雄輔の三成役は意外でしたが好演でした(MOVIE WALKER PRESS より)

 

 上杉家との交流を担当して、直江兼続が三成の意向を底の底まで読む姿は、秀吉が兼続に「天下の仕置きが任せられる」と評したことにも通じ、後の三成との友情にも繋がる名場面。関ケ原石田三成を味方したのは、上杉、毛利、島津、佐竹、宇喜多などの「外様大名」が多く、秀吉子飼いの大名の多くは家康に走ってしまった。

 三成に味方した外様大名は、秀吉に帰順した際の窓口を三成が担当し、検地や交易、帳簿など、上方の進んだ領国経営術を丁寧に教えたことへの恩義が大きい。自領の民へもそうだが、こんな時三成は、とてつもなく親切になる性格を発揮する。

 秀次事件、利休事件、そして朝鮮出兵など、本作品で三成は良く描かれ過ぎで、通説と比較すると違和感を覚える。本作品の流れだと家康が語った「それを御するのがお主の役割」というのはその通りであり、それができなかった逸失は計り知れない。それは「天下の大義のために戦う」とした三成との一貫性を、どのように三成が論じても違和感は拭えない。

 

 ただし、1つだけ一貫しているものがある。「天下の大義のため戦う」とした三成の叫びは、その旗印「大一大万大吉」の意味「1人が万民のために、万民は1人のために尽くせば、天下の人々は幸福(吉)になれる」に通じる。これは西欧の市民革命を動かした思想を先取りしていて、英語の「One for all,All for one」の精神にも通じている。

 

*こちらも石田三成を描いた傑作ですが、何せ本人が登場せず、感想を書くのを断念しました。

 

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