小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

18 白頭の人(大谷吉継) 富樫 倫太郎(2015)

 *最初に潮出版社で発刊された表紙は、非常に印象的でした。

 

【あらすじ】

 近江長浜の城に向う途中で秀吉の母なかが体調を崩す。それを機敏に介抱した農家の妻、東の方を気に入った寧々は、近所の娘香瑠とともに奥に召し出す。その東の方の子、大谷平馬石田佐吉と寺で勉学に励んでいたが、佐吉は新たな城主の秀吉が自らのオ覚を発揮できる主君か試すため、秀吉を寺に誘い出す。「三杯の茶」の寓意を気づいた秀吉は佐吉を叱ることなく、平馬とともに召し抱える。

 

 体力に秀でた加藤清正福島正則、頭の回転で他の追従を許さない佐吉に比べ、目立つところがない平馬。そんな平馬に、毛利家傘下の豪族に寝返りを打診する役が回ってきた。既に見通しがついて、困難な役目ではないと思われたが、相手方の砦には既に毛利軍が目を光らせていた。

 

 豪族は毛利家の監視の目があるため、寝返りを決断できず、平馬は捉えられて土牢に入れられた。身動きができず光も入らない状態で長い間入れられ、牢から引き出された時は瀕死の状態だった。身体の一部は腐敗し悪臭を放ち、毛利軍が川で洗い流そうとすると、平馬はそのまま気を失い流されてしまう。

 

 下流で助けられた平馬は秀吉軍への生還を果たし、秀吉は涙を流して喜ぶが、体力が落ちて精神的に不安定になっていた。秀吉から城への配置転換を打診され、結婚して心労をかけた香瑠を思い平穏な生活も考えるが、父から仕事をやり遂げる大切さを教えられ、再び秀吉の側で働く決意をする。

 

 しかし平馬は次第に髪や眉は抜け、更に顔や身体が崩れ始め、恐ろしい姿に変貌していく。平馬は命を絶とうとするが、香瑠の叔父から清水寺の鳥辺野に連れていかれる。そこには平馬よりも重い状態の病人たちが集まり、死を待つ生活をしていた。

 

 秀吉からは子供の頃諸国を放浪した時、身内から見捨てられて全国を遍路していた病の人たちから救われた経験を話し、病を理由に、平馬を見捨てることは決してないと気持ちを伝える。その言葉から、平馬は生きる希望を授かる。

 

  大谷吉継(歴史人より)

 

 その後も「秀吉を継ぐ者」の意味として吉継の名を賜り、誠実な人柄で仕え秀吉の信頼を受ける。信長が本能寺で亡くなった時、清洲会議の後など、秀吉の心が折れた時には黒田官兵衛に頼まれて、秀吉に寄り添って励ます役割を担う。そんな吉継も上杉から豊臣に送られた真田幸村の、人質にも関わらず真っ直ぐで卑屈にならない性格に感銘を受け、幸村は次男ながら自らの婿に迎え入れる。

 

 秀吉が薨去すると徳川家康石田三成の対決が予想され、黒田官兵衛(如水)はその戦略眼から、吉継に家康に味方するように助言する。吉継は三成に家康との対決回避を進言するが、三成は秀吉のために家康と戦わなければならず、他にいないのならば自分が立つしかないとの決心を聞いて、自分も三成に従う決意を固める。

 

 吉継は関ヶ原の戦いで、少数ながら大軍の小早川秀秋が寝返っても対応できる陣立てをした。戦場でも武勇を発揮し、また小早川秀秋の寝返りにも見事に対処したが、その後重ねて寝返りを受けて、遂に力尽きた。

 

【感想】

 秀吉から「10万の大軍の采配をさせたい」と言わせた(蒲生氏郷も言われた)大谷刑部吉継。人格は素直で大器と呼ばれていたが、ハンセン病か梅毒を患ったとされて、晩年は目が見えなくなり、その能力を発揮することはできなかった。不利を承知で石田三成との友情に殉じ、関ケ原では比較的良好な付き合いだった徳川家康と対峙して、燃え尽きることになる。

 本作品で作者富樫倫太郎は、吉継の病名が断定できないことから想像力を膨らませて、黒田官兵衛(如水)の故事を重ねながらその交流を描いた。また更に発展して秀吉の過去とハンセン病患者との繋がり、そして清水寺の鳥辺野まで結び付けたのは感嘆の一言。人間秀吉を一層深く掘り下げて、合わせて「秀吉を継ぐ」意味で名付けられた大谷吉継の人間にも深みを与えた。吉継と石田三成の友情にまつわる「お茶の挿話」を、秀吉に演じさせたところも、作者の見事な力量に感服した。

 

大谷吉継と同じ運命を味わった、黒田官兵衛の物語です。

 

 息子の吉勝関ヶ原の戦場から逃れて放浪の上、大坂の陣大坂城に入り戦死。婿の真田幸村大坂の陣で活躍し、吉継の孫にあたる真田大助は、豊臣秀頼に最後まで付き従って生涯を終えた。そんな縁者の人生を、吉継の性格通り「真っ直ぐに」繋げた。また母の東の方も、史実では最後まで北政所に仕えていたという

 

 作者の富樫倫太郎が、なかなか芽が出ない中で転機となった「軍配者シリーズ」のヒットから、警察小説と歴史小説を並行して描き、それぞれに結果を出して現在の地位を築いた。本作品も、ともすれば暗いテーマに陥りがちだが、秀吉や三成との関係だけでなく、寧々となかの嫁姑の微笑ましい関係、そして吉継と妻の信頼で結ばれた関係を描き、しっとりとした雰囲気を作品全体に纏わせている。

 大谷吉継の能力だが、関ケ原の前哨戦にあたる北陸征伐で「将器」を発揮することになる。関ヶ原でも、三成が疑わなかった小早川秀秋の裏切りを想定して陣立し、少数ながらも小早川から受けた側面の攻撃に、一旦は耐えた。

 もう少し早く生まれていれば、秀吉の弟秀長や直江兼続のような、宿老としての活躍も思わせた。欲と策謀が入り乱れる戦国の世で、誠実に生き抜いたその姿は、一輪の花のような印象を受ける。 

 

  

*映画「のぼうの城」で大谷吉継を演じた山田孝之。こちらは石田三成を支える「名将」の役を、吉継の象徴と言える白頭巾は無しで演じました(映画.comより)

 

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