小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

15 デフォルト(債務不履行) 相場 英雄 (2005)

【あらすじ】

 大和新聞社所属で日銀金融記者クラブのキャップを務める宮島裕。記者としては敏腕で取材先の信頼も厚いが、90年代の金融パニックを精力的に取材することで、家族関係は崩壊した。

 折しも宮島は財務省高級官僚のOBから、現役官僚の「行きすぎた」行政指導を裏付ける資料をもらったことでスクープ記事をものにする。また宮島の友人で有能なエコノミストである沢田真は、宮島の記事を後押しする立場から、不良債権の問題は終ったとする当局を非難するレポートを書いた。

 そして2人に反動が押し寄せる。日本銀行の「遙か上層部の意向」で、宮島は所属する新聞社の取引を激減される通告を受け社内での立場を失い、沢田はエコノミストから庶務事務への「左遷」を言い渡されて、心労の果てに自殺する。

 そして宮島は沢田への復讐を誓う。ファンドマネージャー、凄腕ハッカー自衛隊出身のミリタリー専門家、そして日銀総裁秘書。これらの仲間とともに企むのは、日本金融の総本山、日本銀行をデフォルトに追い込み、金融界の「上級国民」たちに一泡吹かせること。でも、果たしてそんなことが可能だろうか。

 

【感想】

 第2回ダイヤモンド経済小説大賞(現:城山三郎経済小説大賞)受賞作で、その後も旺盛な創作活動を誇っている。「デフォルト」の言葉はよく聞くが、「お金を刷る機関」の日本銀行がデフォルトを犯すなど、あらすじで書いた通り「果たしてそんなことが可能だろうか」と最初は思った。そう思わせただけでも本作品は成功と言える。日銀付の金融記者としては「ちょいワルおやじ」風の宮島だが、行きつけのバーの常連を中心とした「チーム宮島」を組んで企む様子は、経済小説というよりコン・ゲームを読んでいるかのよう。

 それが主題のためか、物語は「日本銀行をデフォルトさせるにはどうしたらいいか」という視点から、事実を積み重ねて描かれる。経営再建中であった東北新和銀行が破綻の声明を発する日を狙って事件を連発させて混乱させる。日本銀行の本店ではなく、戸田市にある、古い紙幣が一括して集まる発券事務処理センターが原因不明の爆発を起こし、東北新和銀行の破綻声明に合せて準備した現金輸送車が襲撃される事件が立て続けに起きる。

 このように「陽動作戦」で日本銀行内を混乱に陥れたあと、「元総裁秘書」の手腕で婚約者のエリート行員の資料をすり替えて、日本銀行に備蓄がほとんどない「エマージング通貨」の決済が必要な状況に追い込んでいく。その間、ウェブニュースなどを使って、エマージング通貨が簡単に調達できないような環境を作り上げていく。「正」と「奇」に分けて五月雨式に行う攻撃は見事。

*何とも畑違いに思えるシリーズは、テレビ化されました。

 

 中途半端に金融をかじっていると、なかなか見事な展開で作品に吸い込まれていって「さもありなん」を思わせるだけの内容になっている。最後に流石は日本の上級国民、奥の手でこの危機的状況を回避する一手を繰り出すが、「チーム宮島」もそこまで想定して「最後の大技」をさく裂させる。

 最後は「敵役」の上級国民たちが、皆予定調和的な結末を迎え、勧善懲悪劇として一件落着する。宮島も新聞社を退職してニュースサービス社を立ち上げて、専門家を唸らせる記事を連発して軌道に乗る。それにしてもこの「ちょいワルおやじ」さんは、家庭生活は破綻したが、仲間には恵まれて日銀秘書から言い寄られたりと結構いい目を見ていて、作者の願望なのか(あとがきでは妻子に感謝を述べています)。

 言い忘れたけど、最初に出てきた秘密情報をもたらした「ディープスロート(情報源)」、財務省のOBは、その情報のために人の命が1人犠牲になったけど、その後は登場しなかった。この人が本当の「上級国民」かな?

 

*こちらは2月6日と17日にNHKBSで放映されます。