小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

4 仮面銀行 本所 次郎 (1994)

 あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 (新年らしくない小説でスタートとなりましたww)

【あらすじ】

 小学校を卒業して金物屋に奉公するために状況した小桧山誠造は、働きながら日本大学の夜間部を卒業し、鉄屑屋を開業。そこから頭角を現し無尽会社を設立し、光和相互銀行となって発展する。預金の拡大を命ずるがその運用は数多くのファミリー会社への貸し出しに集中し、経営は乱脈を極める。

 カリスマだった誠造の死後、その利権に群がる百鬼夜行の亡霊たち。ファミリー。「四天王」として経営を牛耳る重役たち。その下で「三バカ」と呼ばれる腰巾着。ファミリーの弱みを握り「天皇」として君臨する元検事の監査役。そして酒に女にたかる大蔵省の天下り元役人。

 中堅社員の「四人組」が経営刷新のために立ち上がろうとするが、既に貸付金の50%が不良債権化して、自力での再建は困難な状況に陥っていた。その処理に大蔵省、日本銀行、そして首都圏進出を狙う住井銀行の思惑が入り乱れる。

 

【感想】

 あらすじの光和相互銀行は、そのまま1986年に住友銀行に吸収された平和相互銀行とその創業者である小宮山英蔵にあてはまる(その他の固有名詞はここでは省略する)。「魚は頭から腐る」と言われるが、まさのそれを地で行ったような話で、読むのも途中辛くなった。そのためか、あらすじもいつもより辛辣な表現になってしまった。

 貸出先を自分のファミリー企業に集中したため、融資額1兆円の規模で、半分の5000億円が不良債権になるとは驚き。これでは組織の体をなしていない。それでも自分の立場や利権しか考えない上層部。相互銀行とはそんなものだったのか、とさえ思ってしまう。

 本作品では監査役にも焦点を当てている。検察で将来を嘱望された切れ者だったが、1年上に後に検事総長になった「巨悪は眠らせない」伊藤栄樹が居たため見切りをつけて転身を図り、オーナーの秘密を握ってやりたい放題。そして背任罪で逮捕されると自分の悪行を棚に上げて、政界資金に環流した「金屏風事件」を暴露するなど、本作品の登場人物の1人として「ふさわしい」人物像になっている。

 

 主役とも言える外川敬四郎は、総合企画部の次長職を務めているが、会社再建の意欲はあるも実行に至らない。日銀と大蔵省の検査で、大規模な不良債権を指摘されてからは自力での再建ができず、部下と不倫に走るなど主人公らしくない行動。本来は行内でエリートだったはずだが、住井銀行に吸収されてからは、他の旧光和相互銀行行員と同じように住井銀行側から蔑まれ、孤立して将来の希望もなく、かつての不倫相手が住井行員に乗り換える「現実」を見せられる役割となっている。

 この辺の旧「平和」相互銀行員の運命は、田澤拓也著「住友銀行人事第2部」でかなり露骨に書かれている。友銀行という「大波」に呑まれていく姿は、「融和」や「同化」という言葉では言い表せない凄みがある。会社という組織は大きくなればなるほど、個々では制御できない「暴れ馬」になってしまう時があり、巻き込まれた行員は悲劇でしかない。

 そして吸収する「住井銀行」の事情も簡潔に、そして効率的に描かれている。巨額な不良債権に吸収合併を躊躇する頭取と、「向こう傷は怖れない」名実ともに日本一の銀行に導きた会長「磯川治郎」の対立。強引に吸収を進めようとする磯川は、子飼いで「イトセン」に出向した社長を使って裏工作を進める。住井銀行は光和相互を吸収することにより、日本に金融業界で更なる重き立場を占め、磯川は名実ともに住井銀行に君臨する。但しこちらも「魚は頭から腐る」を繰り返すことになる

 

   

住友銀行に飲まれていった、旧平和相互銀行行員の運命を描く、あまりにも悲しい物語でした。