小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

【コラム】なぜ、減税で支持率が下がるのか

 コラムもおよそ1年振りになります。肩に力が入るようなテーマは避けていましたが、最近のニュースを見ていると、書く意欲が湧いてしまいました。

 

1 「岸田減税」のナゾ

 10月下旬、岸田総理は唐突とも言える所得税減税を打ち出しました。当初自民・公明両党による提言は、所得税減税は盛り込まれていませんでしたが、岸田総理は「所得税の減税を経済対策に盛り込みたい」と強く要望します。

 所得税減税では実施と効果に時間がかかり、国民生活への対策としては給付金方式の方が有効と思われていました。そして何よりも先に岸田総理が打ち出した「防衛増税」と整合性が合いません。

 それでも岸田総理は「過去の税収増分によって発生した剰余金を還元」することを原資とする所得税減税を主とした経済対策を打ち出しました。

 ところがこれがすこぶる評判が悪く、内閣支持率は大幅に下落します

 

 

 *岸田総理大臣(首相官邸HPより)

2 「岸田減税」の疑問点

 疑問の第1は、そもそも国の借金である国債発行総額は約215兆円と天文学的な数値で、2023年の国債発行額は8兆8,750億円と、とても「剰余金」が発生するとは思えないこと。そんな状況でも岸田総理は所得税減税に「還元」という言葉を使っています。

 案の定、言葉の矛盾は鈴木財務相から出され、税収の増加分は既に「政策的経費や国債の償還にあてられてきた」と指摘し、減税をするならば国債の発行が必要と説明しています。

 疑問の第2は、岸田総理自身が昨年暮れに「防衛増税」を打ち出し、その根拠となる財源確保法も6月に可決したばかり。

 現在日本の防衛費はおおよそGDPの1%前後ですが、それをいきなり2%に「倍増」するのは、アメリカが西側諸国に行なった「要望」に応えた形です。ですがウクライナ情勢などから国民もある程度の必要性を認めたのか、テーマの割には思ったほどの「暴動」は起きずに進められてきた印象を受けました。

 但し今回の減税で「寝た子を起こした」形となって、内閣支持率の大幅下落に跳ね返ってしまいます。報道では原因を、岸田総理の政策に一貫性は感じられず、国民から「人気取りにすぎない」と見透かされていると指摘しています。

 けれども私は、今回の支持率下落は、それだけではないと考えています

 

 *「人気取り」の政策に対して、過去にはこんな記事も投稿しました。

 

3 税金とは何か

 税金とはそれこそ紀元前から、人間が集団を形成されるときから発生しました。それは収穫物であったり、労働力を提供する人頭税であったり。

 産業革命によって中産階級が生まれると、税金をスローガンに国王と対決する市民革命が起き、近代国家が成立した経緯があります。税金は一部の既得権益者が潤うものであってはならず、公共サービスに寄与し、富の再配分を行う役割を担うものだと。

 日本でも、憲法納税の義務がうたわれていますが、税を徴収するには法律に基づく「租税法律主義」が定められ、安易な徴収に歯止めをかけています。

 そして自民党では「税務調査会」と呼ばれる、長年に亘り税務に携わった実力者が存在します。財務省はもとより、時の総理と言えども無視できない存在感を示してきた「結社」は、時に為政者に立ちはだかり、時には協力して税制改正の「是非」について大きな力を発揮してきました。

 それを今回、岸田総理は「頭ごなし」とも言える手法で、増税と減税を立て続けに打ち出してしまいました。

 税金とは国家そのものです。例え総理であろうと、軽々しく扱うことは許されません

 

 *こちらでも、国家財政の危機について投稿させていただきました。

 

 

4 税金に携わる者の責務

 防衛増税から今回の減税にかかるここ1年間の流れは、総理の意向が強く打ち出され、指導力を発揮したと見えなくもありません。

 そのため、税金の上げ下げを総理1人の力で、これだけ安易に決めてしまいました(少なくともそう見えます)。防衛増税の時はそれほど下がらなかった支持率が、今回の減税で大幅に下落した要因は、国民が税制改正方法について危惧を覚えたのではないでしょうか。今後も税金の上げ下げが、安易に行われる「危惧」が

 

 かつて国家財政の健全化のために、文字通り命を落とした政治家がいました。そして自民党でも何人もの総理が、消費税の導入のために自分の政権を犠牲にして現在に至ります。また財政健全化のために、与党内での対立も辞さなかった政治家がいました。

 ところが、国の借金である国債の総発行残高は増加するばかり。自分の身を切ることができないままで、国民に媚びを売る政策しか提示できなくなっています。

 物価高もあり国民の生活は厳しいのは確か。但し今回の「減税反対」を見ると、国民の「理性」も信じたくなります。東日本震災の復興増税や防衛増税のように、必要と思われて、かつ政治家が真剣に国民に向き合って訴えれば、反対ばかりではないことを。

 税金とは国家そのものです。税金に対する国民の危惧は不信を呼び、それは国家の根幹を揺るすことになります。

 国家の根幹が、1人の政治家の安易な人気取りで瓦解しないことを祈ります

 

*財政健全化に命を捧げた、戦前の政治家2人の物

 

 

蛇足 それにしてもタイミングが・・・・

 神田財務副大臣が過去に税金を何度も滞納した事実が判明しました。与野党とも神田副大臣に対して「説明責任を果たしていない」と述べていますが、本人は「事務ミス」と説明し、今後も職務を全うしたい意向を示しているので、(それが本当ならば)それに尽きています。そうなると「下駄」は内閣に預けられます。

 内閣がこのまま職務遂行を認めると、「税理士の資格を持つ専門家で、かつ徴税の責任者でもある財務副大臣が、税金滞納を事務ミスで片付けているのだから」、税務署による1度や2度の督促や催告は応じる必要はない「抗弁材料」を与え、徴税業務に大きな支障が生じます。

 

 山田太郎文部科学政務官は「不適切な男女関係」で辞職。

 柿沢未途(みと)法務副大臣は「公職選挙法違反容疑」で辞職。

 そして今回、神田憲次財務副大臣は「税金滞納問題」でたぶん辞職。

 これだけピンポイントに役職に繋がる問題を起こすとは、一周回って適材適所?