小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

8 功名が辻(1965)

【あらすじ】

 織田信長軍の中で貧乏してパッとしない、「ぼろぼろ伊右衛門」と呼ばれる山内伊右衛門一豊。そんな一豊のもとに、千代という美しい娘が嫁いできた。婚礼の夜、千代の夢は夫を一国一城の主にすることで、一豊様ならばできます、と励ます。与力として仕えた秀吉の引きもあり、一豊は少しずつ出世する。

 

 安土城を築城中、一豊は城下で駿馬を売る商人を見かける。見事な馬に心を奪われるが、十両という金額に一旦は諦める。しかし話を聞いた千代は、城下でも評判になったその馬を購入すべきと決意し、秘蔵の小判を差し出して買うよう一豊に促す。一豊は分不相応の家臣を抱えて貧乏続きの中、妻がへそくりを隠していたことに憤慨する。しかし千代の「泣き落とし」の演技にあって、結局金を受け取って馬を買い、その後の京都御馬備えもあって名声を博した。

 

 本能寺の変が勃発したとき、一豊は秀吉に従軍していた。秀吉は明智光秀を討ち、その後の後継者争いで柴田勝家賤ヶ岳の戦いで破る。その一連の戦いの中、一豊は家臣を失う犠牲を払うも、対する恩賞は微々たるものだった。一豊は武士の生活に嫌気がさすが、千代の励ましによって武将として生きる道を選ぶ。一豊はその後関白となった秀吉から近江長浜城を賜わり、2万石取りの大名に出世する。そして京では、千代が暇にあかせて唐織の端切れを集めて縫った小袖が評判となり、その評判は一豊の名も世間に広めることになった。

 

 山内一豊高知城HPより)

 

 秀吉の死後、実権は徳川家康が握るが、石田三成も豊臣家を守ろうとして対立が鮮明化し、一豊も旗幟を明らかにする必要が出てきた。上杉討伐に徳川家康に従軍した一豊ら東軍に、石田三成が決起した報が入る。晩年に秀吉の治世を嫌っていた千代は、一豊にそれとなく家康に近づくように仕向け、家康が今後の方針を決める小山会議では、一豊は自分の領地を全て差し出すという「有り金全て」を家康に賭ける、思い切った宣言で会議に参加した武将たちをまとめた。また千代も、一豊への手紙は開封せずに家康に見せるように進言して、家康からの信頼を勝ち取っていく。

 

 関ヶ原の戦いで家康が勝利する。一豊に活躍の場はなかったが、小山会議での発言もあり、土佐一国が与えられた。ところが領地は旧主長曾我部家の家臣による抵抗が激しく、一豊はだまし討ちをして反対する勢力を一掃する。婚礼の時に2人で誓った一国一城の主になることに、千代も力を尽くしてその夢を実現した。しかしその結果、領国を平定するために、無実の者の命を多く奪うことになり、千代は失望する。

 

 一豊はその後領国経営に努め、61歳で死去する。千代は京に移り住み、夫と同じ61歳で没した。

 

 

【感想】

 こちらもNHK大河ドラマの原作となった作品。勇将とは言えず機転も利かないが、真面目に戦に取り組んで地道に出世した山内一豊とその妻千代の物語で、主人公はどちらかというと千代寄り。また昔の教科書では、千代がへそくりをはたいて購入し、ダンナの面目を施した「十両の馬」の話もあり、有名だったらしい。

   *千代と「十両の馬」(米原市HPより)

 

 「女性活躍」が推進される現代とは価値観が違う「良妻賢母」の話。とは言え男のサガは昔から変わらす、プライドが高くて女房には頭を下げることができない反面、おだてられるとすぐ乗せられる、まあ子供そのもの(一般論で、特定の個人を指してはいませんww)。そのプライドを活かして、知っていても知らないフリをして、ダンナを導かせながら、自分の思い通りに操縦するのが「昔の」女房の手腕だが、今では大半の女房は口を出さずにはいられないでしょう(^^)

 あらすじでは、「十両の馬」の他に、小袖の意匠コーディネーターや、関ヶ原の戦い前後の役割など千代の活躍があるが、日常でも分不相応な家臣を養って、苦しい家計をやりくりしたり、困った時にさりげないアドバイスをしたりと、細々と目配り気配りをしている様子がほっこりとして、読む方も飽きない。

 但しこれだけでは、一豊は単なる「操り人形」に過ぎない。バランスを取るため、一豊が金ケ崎の退き戦などで活躍する様子を描いているが、時折架空の人物、忍者の望月六平太と小りんと登場させて、一豊と丁々発止を描いている。その中で一豊を単なる功名に目がくらんだ武士ではない、腹の据わった面も描いている。また高知での治水工事や築城など、戦国の英雄長曾我部元親でもなしえなかったことを、山内一豊は技術と粘りで成し遂げるなど、領主としても非凡な才能を有する一面も描いている。千代は千代で才能もあり、見事な脚本家でもあり演出家でもあったが、「演者」の一豊もなかなかの役者だったということだろう。

 織田家中では、妻の濃姫、妹のお市の方を始め、秀吉の妻寧々前田利家の妻まつなど、「女性活躍」が多いが、その中でも千代は秀でている。この古くて新しいテーマは最近の小説で、白石一文が描いてNHKでもドラマ化された「1億円のさようなら」と重なる。妻が巨額のお金を長年夫に隠し持っているが、夫がその存在を知ると、隠した事実に怒って家を出るシーンがあった。これを見て私は「十両の馬」の話を思い出したが、大河ドラマ山内一豊を演じていたのも、「1億円のさようなら」で夫を演じたのも、共に上川隆也というのが面白い。主人公は単に妻に操縦されるだけでなく、有能で筋を通す人物と言う点でも共通している。そして妻が隠していたへそくりを、ダンナのために「思い切って」使うのも、良く似ている。

 

*なぜか重なる、やりくり上手の妻の掌の上で踊らされる、夫役の上川隆也が演じるドラマ2つ。