小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

9 覇者の誤算 日米コンピュータ戦争の40年 立石 泰則 (1993)

【あらすじ】

 コンピュータの黎明期から、IBMがその業界を支配していた40年間。海外のライバルメーカーが次々コンピュータ事業から撤退を余儀なくされた中で、唯一IBMの支配から逃れて国産メーカーが生き残り、逆にIBMからシェアを奪う成長をみせた日本。その違いは何か。コンピュータ発展の歴史を日米で描きながら、その理由を探るノンフィクション。

 

【感想】

 何とも密度の濃い1冊。専門用語のオンパレードでもあり理解できない箇所もあるが、当時夢中で読んだもの。「電子立国・日本の自叙伝」を観ていたので、ストーリーにはなんとかついて行けた。なぜ夢中になって読んだのか。それはコンピューター業界が当時「戦国時代」で、天下統一の途上だったと思ったからだろう

 まず「IBMの息子」トーマス・J・ワトソン・JRによるIBMが、コンピュータ業界に進出して支配するところから始まる。技術力もあるが、営業至上主義のIBMは「政治力」も駆使して、ライバル会社を傘下に収め、または打撃を与えて業界の「ガリバー」となっていく。

 

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 対して日本は、諸外国が「小人」だった時代に、敗戦直後で小人でもない「モスキート(蚊)」の存在でしかなかった。そこでまず1つ、官僚たちの夏佐橋滋と、その部下で後に「一村一品運動大分県知事になる平松守彦が窓口になり、「タフ・ネゴシエーター」IBMと交渉を続け、ギリギリのラインで政府の保護を進める。また国内メーカーにも保護を進め、乱立している国内メーカーを集約してグループ化して、政府から支援を与えている。

 第2に、技術を開発する「人」の問題。「IBMを震え上がらせた男」池田敏雄を中心とする国内メーカーの技術者たち。危機に陥るタイミングで現われて、「個人の意気込み」によって、文字通り命を削って研究開発に努め、IBMに対抗していく。

 

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 ところがその連携にズレが生じてくる。敗戦後間もなくは、官、民、そして個人とベクトルが一致していたが、高度成長を経て官は「ノトーリアス・ミティ(悪名高き通産省)」と外国から叩かれる。企業は力を蓄え国の束縛から離れようとする。そして日本の組織も、佐橋滋や池田敏雄のような「異色官僚(佐橋滋の自伝の名)」や「天才」を受け入れる余裕がなくなり、協調性のある「歯車」を求めるようになる。

 一方でIBMは、巨人となったことで、国から独占禁止法違反で訴えられる「足枷」を受ける。少しの譲歩と和解などでくぐり抜け、「IBM互換機」が世界の主流として定着して「覇者」が再度君臨、反撃にでる。1982年、おとり捜査による「IBM産業スパイ事件」が発生した。これはIBM互換機が市場を制覇していたからこそ起きる事件。日立は産業スパイ事件の後和解するが、ソフトウェアに関する秘密協定があったことが報じられている。また、池田亡き後の富士通はIBMが著作権法違反で訴えようとしていることを察知して日立と同様の協定を結び、「軍門に降る」。

 ところが「巨人」IBMも、その後のパソコンの価格破壊に翻弄されて「高転びに落ちる」。時代は急速に変化し、「ウィンテル」が新たなガリバーとなって、ついにはIBMをも見下す存在になっていく。

 コンピュータ業界の栄枯盛衰を見事に描いた見事なノンフィクション。なお以下は蛇足。作家立石泰則は元々文藝春秋の編集者だが、30歳のとき急性胆嚢炎で入院して以来、入退院を繰り返していた。そんな立石を心配して、週刊誌記者を辞めて独立を進めた人物が同僚の白石一文と、本作品のあとがきに書かれている。

 白石自身もパニック障害に陥り、作家との二足のわらじを履いていたが、結局退社した。その後の活躍はご存じの通り。

 

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*そしてこの作品に多大な影響を与えたと思われる、「日米自動車戦争」を描いた傑作。