小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

12 狼たちの野望 大下 英治 (2001)

【あらすじ】

 大学時代から起業を目指し、2000年3月東証マザーズに株式公開を果たして26歳で上場企業の最年少社長となったサイバーエージェント藤田晋。最初から起業を目指してそれをやり遂げた藤田晋の半生をその業界で取り巻く「狼」たち、すなわち共同経営者の日高裕介、オン・ザ・エッヂ堀江貴文、ネット・エイジの西川潔、インテリジェンスの宇野康秀楽天三木谷浩史、グローバル・メディア・オンライン(旧・インターキュー)の熊谷正寿、ガーラの菊川暁。そしてソフトバンク孫正義との交流を通じて述べる。

 IT産業黎明期における若き企業リーダーたちの「群像」を描くドキュメントノベル。

 

【感想】

 現在は絶好調の「AbemaTV」も率いている藤田晋。しかし個人的には、人気絶頂期の奥菜恵と結婚して翌年離婚したことと、麻雀最強戦で「胴元」なのに出場して(笑)、プロを相手に優勝したことが印象に強い。藤田晋の麻雀は、「伝説の雀鬼桜井章一が主催する「雀鬼会」出身者特有の瞬時の判断力で、局面がピンチの時でも決してベタ下りせず、裏打ちされた読みで、危険牌ギリギリの所を切り出して局面の打開を図り、他者を使ってまでも最後まで諦めない手作りを行う・・・・ いかん、つい熱くなった。話を元に戻す。

 そんな藤田晋が、ITに関する知識も技術も(それほど)持っていない中、なぜIT業界で「覇権」を握るまでになったのか。高校時代から起業を目指して、営業で頭角を現して自分の目標に突き進む。アイディアは持っているが、そのアイディアを実現できる人材に積極的にアプローチして、自分の夢を語り、そして自分の夢を周囲に巻き込んでいく。

 そして自分の夢が「バリュークリック」という広告商品に結びつく。インターネット黎明期における先駆的な技術を知って、すぐさま自社の取扱商品として開発し営業をかける。日本で牛耳っている広告業界を出し抜くアイディアで、会社は成長を遂げていく。

 自分で「技術」は持たないが、持ち前の営業力とエネルギーで成長していく。これは時代がちょうど100年ずれているが、IBM中興の祖、トーマス・J・ワトソン(シニア)を彷彿とさせる(ワトソンの誕生は1874年。藤田は1973年)。時代が求める「嗅覚」に優れ、そのために必要なものを周囲に求めて、チームとして牽引して盤石の組織を作る。そしてその組織は、インターネットにより価値観が変わった世界において、日本経済界に「下克上」を起こす。そしてその回りには様々な「戦国武将」と合従連衡を繰り広げる。

 

nmukkun.hatenablog.com

*技術とともに、営業も重視したIBMの物語

 

 若者が始めて運転免許を取って、行動範囲が無限に広がったと感じるように、インターネットに無限の可能性を感じ取った「ライブドア以前」の堀江貴文。故郷が阪神・淡路大震災で被災して人生観が変わり、一流企業を退職して起業した三木谷浩史。モバイルコンテンツを手がけて現在はスマフォコンテンツで成長を遂げた西川潔。人材派遣業を手がけ、社員だった藤田晋の独立を後押しした、USEN創業者の息子宇野康秀。いち早くインターネットインフラ事業を手がけた熊谷正寿博報堂を退職し、パソコンのグラフィックデザインを手がけて成長を遂げるガーラを設立した菊川暁。

 ヒエラルヒーが固まったと思われた20世起末に蠢いた「戦国武将」たちが一国一城の主になる姿を描く。それは現代における天下統一の物語。そんな本作品の中で、博報堂の社員が菊川暁に語った言葉が胸に刺さった。「人には三種類いる。人手と人材と人物だ」(本作品25ページ)。

 果たして今の自分はどれに当てはまるだろうか。

 

   藤田晋ウィキペディアより)