小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

1 放課後 (1985)

【あらすじ】

 私立清花女子高等学校で数学教師を務める前島は、何者かに命を狙われる恐怖を感じていた。命の危機を感じるも、学校のイメージダウンを恐れる校長の意向もあり、警察には届けてはいなかった。

 しかし学校内で事件は起きる。死んだのは前島ではなく、生徒指導の村橋だった。現場が密室であったことから学校側は自殺と判断していたが、警察は他の状況から他殺の可能性も視野に入れて捜査を進めていた。前島も警察と同様に他殺だと考え、自分を狙っている犯人と同一人物ではないかと推理した。

 そして次に殺害されたのは、陸上部顧問の竹井。但し前島を狙ったような形跡があり、前島は自分の身代わりに殺されたと思う。

 

【感想】

 3度目の江戸川乱歩賞応募で受賞した作者のデビュー作。主人公の前島は家電メーカーのシステム開発設計を担当していたが、教師に転職したアーチェリー部の顧問。作者も大学時代はアーチェリー部に所属し、大学卒業後はメーカーに5年ほど勤めた経験があり、また当時の妻が女子高の非常勤教師をしていたことも踏まえて、人物や舞台の設定などは、現実と齟齬がないような裏付けをしっかり押さえた。

 舞台は女子高だが、ミステリーマニアで、事件に首を突っ込んでは捜査をかき混ぜるような存在はいない(^^)、普通の女子高校。そのため主人公の前島に反抗する生徒や誘惑する生徒など、「女子高あるある」をちりばめながら物語は進む。前島は危険が重なったこともあり、自分は命を狙われている、という漠然とした気持ちを抱え、その後の事件を予感させる。

 取り扱うのは密室殺人と推理小説の王道。そのトリックは東野圭吾の経験を活かしたもので、犯行の状況を解明するためにも必要なものであり、うまく処理されていると思うが、作品の装飾的な意味合いの印象も受ける。第2の殺人では、体育祭で本来前島が演じるはずだったピエロを、生徒を驚かすため陸上部顧問の竹井が替わったために起きた事件。一度は疑いが薄れた、自分が狙われている恐怖を再度思い起こさせる。

 それから1つの疑問が生じ、そこから真相が判明していくのだが、この犯人の動機は考えさせられた。現代ではなかなか共感できない動機は、当時でも物議を呼んだと言う。舞台や人物設定に具体性を織り込んだだけになおさら違和感を受けた。シリアルキラーとは違い、女子高生にある気持ち。刑事は、今回の殺人を通常の「色、欲、金」の三原則では説明がつかないとして、主人公の前島に女子高生が人を憎むというのは、どういう時か意見を求める。その回答として前島は、友情や恋愛、そして思い出や夢等「美しいもの、純粋なもの、嘘のないもの」が破壊されることを憎むと言っている。

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 ただそれだけが本作品における事件の動機だろうか。(女性に限ったことではないが)古い話で恐縮だが、トイレに行くのにも仲間と一緒でなければいけないような仲間意識。例えば「ママ友」による仲間意識。そして会社などでの派閥。そこではグループから脱落したら怖いと思う気持ちも現れ、そのグループに束縛されている人間がいる。そんなグループ内で起きた1つの出来事が、グループで行動を起こすことになったのも、要因の1つと勝手に思ってしまう。

 女子高を舞台にした本作品は、(当時の)女子高だからこそ説得力を与えた。そして最後に「女性」による強烈なしっぺ返しで、一旦消えたと思っていた伏線が、突然回収される。とは言え正直、それまでの江戸川乱歩賞作品と比べて突出しているとは当時思えなかった。トリックよりも登場人物の性格設定や動機に重きを置いた印象を受けた。

 処女作は作家の全てが詰まっている。いろいろな意味で東野圭吾のデビュー作