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【あらすじ】
かつては中学教師をしていて、現在は児童向けの本を書いている野々口修。小学校時代からの幼馴染で、翌々日にはバンクーバーに移住する予定のベストセラー作家・日高邦彦の家を訪れる。用事が終わり帰宅して、出版社の人間と打ち合わせをしていると、日高から連悪があり、家まで来て欲しいと言われる。早速訪ねるが、家には人の気配がない。心配してホテルに待機していた日高の妻理恵と合流して家に入ると、日高の死体を発見する。
教師時代に野々口と知り合いだった加賀恭一郎は、捜査の過程で疑問が生じ、野々口を疑い、そして逮捕する。殺人を認める野々口だが、動機は口にしない。小学生の時から幼馴染で、出版社への紹介もしてもらった「恩人」日高を、野々口はなぜ殺害しなければならなかったのか。
【感想】
加賀恭一郎シリーズ。すっかり刑事らしくなって捜査を主導しているが、本作品では大学卒業後2年だけ勤めた教師生活が絡んでいる。新任の時にお世話になった先輩教師の野々口が今回の容疑者(本来ならば事件関係者が知り合いということで捜査から外れると思うが、それは置いて)。
まず逮捕に至るまでが二転三転して細かい。捜査陣が見落とした証拠を基に、加賀が推理を重ねて疑問点を追及する。そこから犯人に到達するまでの捜査は見事で、これだけでも物語として成立する内容。「手順」を疎かにしていない。
そして野々口が逮捕されてから本作品の「主題」となる。野々口は動機について固く口を閉ざす。但し動機を匂わすヒントはちりばめている。この辺は名作「半落ち」を連想する(本作品の方が先である)。
*加賀恭一郎の初登場作品。大学4年生で剣道大学チャンピオンでした。
まずゴーストライター説。野々口の家からは大学ノートやフロッピーディスクが見つかって、そこには日高がこれまで発表してきた作品に酷似した作品の現行が残されていた。
続いて女性の影。野々口の部屋からは、女性用のエプロンやネックレス、そして自分の名前と「野々口初子」と書かれた旅行の申込書があった。その女性の写真から、日高の元妻で、5年前に交通事故で死亡した日高初美であることが判明する。
そして凶器など決定的な証拠が見つかり、ついに野々口は観念して、ゴーストライターで虐げられた人生と、日高の前妻との浮気が同期であることを手記として作成、提出する。ところが加賀はそれでも納得しない。手記の矛盾点を発見して、そして本当の動機にたどり着く。この辺の二重三重の周到な罠の張り巡らし方は、「容疑者Xの献身」の犯人に重なり、それを何度も見破る加賀は、既に「ガリレオ」の域。
物語としてはズシンと重みのある作品となっている。但し冷静に考えると、この「動機を隠すため」に費やした相当な労力に対して疑問が残る。野々口は病で余命いくばくもないことを知ってこの行動に出たわけだが、果たして「動機を隠す目的」にそれだけのエネルギーを使うものだろうか? そしてそのモチベーションである「暗い情念」はどこから来たのか。
そこを東野圭吾は「いじめ」問題と関連付けている。いじめの本当の原因、それは大抵が他愛のないもの。「放課後」から様々な事件の動機を描いてきたが、本作品は「動機=ホワイダニット」に絞って研ぎ澄ました作品。そして行き着いた1つの到達点。
*加賀恭一郎の次の登場作品は、教師から転職して、まだ新米の刑事でした。