小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

冬のスポーツと東野圭吾とドーピング

 スキー場から遠くで育った私は、ウィンタースポーツは縁遠い存在。大学時代は「私をスキーに連れてって」や「SURF&SNOW」が一世を風靡して、スキーのインストラクターは憧憬の眼差しで見られた時代ですが、せめてラグビー観戦位でした。

 対して私が年末年始に取り上げていた東野圭吾は、ウィンタースポーツが大好きで、ウィンタースポーツにかかるエッセイを2冊も上梓しています。

   「にわかおっさんスノーボーダー」を巡る爆笑エッセイ集   「ちやれんじ?」

  冬季オリンピックを独自の視線から見た観戦記   「夢はトリノをかけめぐる」

 

 そしてウィンタースポーツを舞台とした作品も、思いつくままでも以下があげられます。

    スキーヤーの技能を引き継いだ娘が、実は自分の娘ではない疑惑の カッコウの卵は誰のもの」

    殺人の容疑を晴らすアリバイを証明できる美人スノーボーダーを探す 「雪煙チェイス

    スノーボードツアーで新たな恋を求めるが、その結末は衝撃的な 「恋のゴンドラ」

    スキ一場に隠されたと思われる生物兵器を探すサスペンス 「疾風ロンド」

    ゲレンデに埋まった爆弾で脅迫する犯人を追う「白銀ジャック」

 

 そして私が最後まで20選に取り上げるのに迷った作品に鳥人計画(1989)」があります。

【あらすじ】

 スキー・ジャンプ競技の期待の若手として注目を集めていた楡井明が毒殺されて、コーチの峰岸貞男が逮捕される。楡井はカプセルのビタミン剤を常用していたが、誰でもすり替えは可能な状況だった。事件から4日後、捜査本部に「楡井明を殺したのは峰岸」と書かれた封筒が送付された。峰岸の実家近くで紛失したトリカブトの瓶の棚から峰岸の指紋が検出されて容疑は固まる。留置場では、峰岸は密告者が誰か、そして真犯人は誰か推理することになる。

  そんな取り調べ中に起きたジヤンプ大会で、バツケン・レコード(最長不倒飛行記録)を更新して優勝したのはライバルチームの監督の息子、杉江翔。父親の杉江泰介はドーピングに手を出しているという疑惑もあった。そして監督の娘夕子は、殺害された楡井明の恋人と言われていた。

 

 本作品でもそうですが、東野圭吾はスポーツ競技に早くからドーピングの危険性に警鐘を鳴らしています。私が「鳥人計画」と迷った末に、インパクトの大きさて選んだ「美しき凶器」は象徴的です。そして本作品も同様に、ドーピングなどによる選手育成が、その選手の人体に影響を及ぼし、生命の危険にまで至ることを示唆しています。 

 

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 今回の北京オリンピックで登場した、周囲の選手から「絶望」とまで評された完璧な演技を誇るカミラ・ワレリエヴナ・ワリエワ選手。晴れの大舞台でドーピング問題が巻き起こり、その嵐の中でさすがの 「絶望」も心を乱したのかフリー演技に失敗し、4位となりました。                                             

 ドーピングは決してやってはいけないことですが、その薬を調達して接種することは、15歳の選手に判断できるわけがありません。東野圭吾の作品でも、選手よりもむしろ監督やコーチが、自分の名声や 「芸術作品」を作り上げるために、ドーピングに手を染める実態を描いています。

f:id:nmukkun:20220219080946j:plain (写真:ロイター)

 

   まして「祖父の薬を飲んだ」との言い訳は、ロシアが国ぐるみの不正が認定され、国家での国際競技参加が禁止されている「李下に冠を正さず」の状況下で、金メダル候補のオリンピック選手として、全くあり得ない話。「氷の女王」と呼ばれるトゥトベリーゼコーチはワリエア選手に、競技が終わったあとかなり厳しく詰問したといいますが、ドーピングが「仮に故意でないにしても」15歳の選手に対して余りにも杜撰な薬物管理体制。「いずれにしても」コーチも連帯責任のはずです。

 この競技で2位となり銀メダルを獲得したアレクサンドラ・トルソワ選手(17)は金メダルを獲得出来なかった結果に号泣し「スケートが大嫌い。もう二度とスケートはしない」と語りました。アスリートならば「トップ」を目指す執着心も必要でしょうが、特にロシアでは「金メダルとその他」で大きな隔絶があり、将来に影響を残すとされています。

 f:id:nmukkun:20220219081018j:plain (写真:ロイター)

 今回の問題で選手の年齢制限などが問題になっていますが、問題の本質はそこではありません。ドーピングを行なう土壌、そして選手のみに非難が集中する報道に対して改革しなければ、ワリエア選手のような「犠牲者」はまた次々と現われるでしょう。

 ドーピングの1番の犠牲者は選手。そのことを東野圭吾は20世紀から現在まで、ミステリーの舞台を借りて問いかけ続けていました。

 

今週のお題「冬のスポーツ」