ついに時間は午前4時。読み始めて8時間経過し、頭も疲れてきた。でもここまで来たら、全部読むのも1作残すのも同じ、と自分を納得させる論法を組み立てて読み続ける。
【あらすじ】
ワトスンの同級生で出世頭と言えるフェルプスから手紙が届く。彼が奉職している外務省で預かった海軍条約文書を紛失し、ホームズに探して欲しいとの依頼であった。紛失事件の痛手でフェルプスの神経は病んでいた。事件の夜から2か月ほど療養している婚約者の家に行き、事件の概要を聞くホームズ。フェルプスから話を聞いた翌日、再び婚約者の家に行くと、フェルプスの部屋に泥棒が侵入しようとしたという。ホームズはこの話を聞き、策略を巡らす。
【感想】
急に話が大きくなった。外務省内で起こった、ヨーロッパの大国を巻き込む事件。その責任が1人に負わされるとしたら、神経も参ってしまうだろう。珍しく作品に見取図も挿入されて事件のあらましが語られ、私も必死に考えるが、これだけでは全く想像できない。フェルプスは必死になってホームズに救いを求める。対するホームズの答えはあの有名な「バラと宗教」に関する演説。煙に巻く、というよりは、話題を完全にそらして、フェルプスの「懇願」に全く応えていない。とはいえ、手掛かりが7つほど見つかった(!)との発言もあり、ホームズ流推理に期待する。帰りの汽車でも公立小学校を見て、「未来を照らすかがり火」と表現するなど、含蓄のある、まるで「次が最後の事件になるかのような」発言が続いている。
ホームズはいったんロンドンに戻り、スコットランドヤードで捜査の進捗を確認する。フェルプスの叔父である外務大臣に事情を聞いている日の夜、フェルプスの部屋に侵入者が現れる事件が発生する。この事件で「7つあった手掛かり」が、ホームズの脳細胞の中で1つに絞られる。組み立てた推理を立証するためにホームズは、ワトスンとフェルプスをロンドンに行かせて自分は1人、フェルペスが療養していた家に戻る。それが何を意味するのか、全くわからない私。
翌朝、ホームズの部屋での朝食の場面。疲れ切った表情を見せる「小芝居」を使って、相変わらず人の悪いホームズ。予期せぬ場面で突然の条約文書の出現に、フェルプスと一緒にビックリするもなぜかホッとする。そしてまた見事な解決編。その中の「まだらの紐」を思い出させる、ホームズの深夜の張り込みと犯人との対決は、とても印象的。すべての手掛かりが一つに収斂され、物語の結末がきれいに収まっている。
雨戸の隙間から朝日が差し込んでいる。12歳で人生初めての徹夜。延べ10時間ホームズの本を読み続け、頭が疲れている。そんな中、高揚感と喪失感が合わさる不思議な感覚に陥っていた。
このあと小学校に行くも、なぜか睡魔には襲われなかった。学校から帰ったあと近所の本屋に直行して、なけなしのお小遣いからシャーロック・ホームズの本を1冊買い、大事に持ち帰ってまた読む。そして中学校の入学祝いとして、新潮文庫版のシャーロック・ホームズ全集をおねだりすることになる。
もう40年以上も前の話だが、今でも鮮明に覚えている。12歳の子供が初めて徹夜したときの「冒険と思い出」の物語。