小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

6 ボヘミアの醜聞 (冒険)

【あらすじ】

 ホームズはボヘミア国王から、以前に遊びでオペラ歌手のアイリーン・アドラーと取った写真を取り返す依頼を受ける。結婚を控え、アドラーからその写真を送ると脅しがあったというのだ。依頼を受けたホームズは馬丁に変装して彼女の周辺と調査すると、ノートンという弁護士の男が毎日アイリーンを訪ねていることを知る。見張っていると、ノートンとアイリーンは急に馬車に飛び乗る姿を見つける。慌てて追跡すると、何と彼女の結婚式に立ち会う羽目になる。新婚旅行前に急いで写真のありかを見つけるために、罠をはるホームズ・・・

f:id:nmukkun:20210328084828j:plain

  【感想】

 ここから取り上げる作品は新潮文庫で読んだ作品で、短篇集の記載順に挙げていきます。

 

  ホームズの人気が爆発した「ストランド」誌での短編の連載形式で、記念すべき短編第1作。挨拶代わりのためか、ホームズとワトスンの推理に関する会話が「いつもより多く回って(?)」いる。

 インパクトのあるボヘミア王の登場(挿絵がまたいい!)。そこから始まるホームズとアイリーンによる写真の「争奪戦」。大仕掛けをしてアイリーンを「騙す」ホームズのやり方は、どちらかと言うとルパンを想起させる。

 この短編第1作でアイリーン・アドラーを登場させたことを、最初は不思議に思った。「女性蔑視」とも言えるホームズの性格は長編2作ですでに出来上がっていて、この後も「人を好きになったことがない」と大っぴらに言うホームズ。そんなホームズが唯一の気になる女性であり好敵手の登場は、本来ならばもっとホームズの人気や性格などが定着してから、「番外的に」思いつくアイディアではないのか。

 結果的にはこの短編第1作で登場した(そして、これ以降登場しない)インパクトは強く、おそらく番外的に登場するよりも多くの研究者の研究対象となり、そして多くの読者が引き付けられる存在となった。

 シャーロッキアンの間では、ホームズのアドラーに対する見方を、恋愛に似た感情を持っていたのではないかとする説と、ワトスンの書いた通りで、唯一能力的に敵わなかった女性として特別なのだとする説に分かれているという。

 容姿の美しさ、オペラ歌手として「プロ」の姿、ホームズを先回りする機転、そして何よりも、国王を惑わし、そして「脅かす」度胸。これ以降の作品で登場する女性たちとは全く異なる描き方。1人の人間として完全に自立している女性像は、ホームズからみれば、「二者択一」できない、複雑な感情があったのだろうと思いたい(何せ、ホームズは結婚式の立会人だからね)。

 作者ドイルは数多い短編の中で、1つのアイディアを変奏曲にして、いくつかの短編に仕込んでいった。しかしアイリーン・アドラーに匹敵する女性は、その後のホームズ物語では登場させず、「最後の挨拶」で言及するにとどまった。

 そしてアイリーン・アドラーは、シャーロッキアンの中で「伝説」となった。