小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

8 黄色い顔 (思い出)

【あらすじ】

 ノーべリに住むホップ商のグラント・マンローから依頼を受ける。マンローはエフィという未亡人と結婚していた。彼女は若い頃アメリカで弁護士と結婚して子供もいたが、黄熱病で2人とも亡くしてしまい、イギリスに戻ってきてマンローと知り合って夫婦になったのだという。今は幸せに暮らしていたが、ある家族が彼の近所の別荘に引っ越してきて以来、不吉な影が差し始める。

 マンローが挨拶しようしても、無愛想な女がろくに返事もせず、その家の2階の窓からは不気味な黄色い顔が覗いていた。そしてエフィは急に高額のお金を引き出し、その別荘に出入りするようになるが、その理由は決して語ろうとしなかった。

 そしてホームズは推理する。亡くなったというエフィの先夫は実は生きていて、何かの理由で彼女はイギリスに逃げ帰り、夫は死んだと偽ってマンローとの新生活に入るが、居場所を突き止めた先夫はその別荘に住み着き、全てを暴露するぞと恐喝している、というものであった。

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 【感想】

 出だしの印象とテーマが重かったため、そしてホームズが余り活躍していない内容から、初読の印象は悪かった。とはいえ本作品のテーマは「ホームズが解決に失敗した(にも関わらず真相が明らかになった)」と言われている物語となっている。再読して、特徴のある物語と感じて今回取り上げた。

 まず、依頼主グランド・マンロ―が置き忘れたパイプを使って得意の推理。定番だが、読者も期待しているので、作者ドリルも手を変え品を変え、大変苦労したことだろう。

 そしマンロ―の話。大筋は【あらすじ】の通りだが、マンロ―の話が、徹夜が続いて疲れているせいか、話がうまくまとまらない。そして難しい性格で神経質な感じの様子がよくでている。対してホームズは、その未整理の情報を元にして推理をする。

 ワトスンは「全て推測ばかり」と突っ込むが、ホームズは「もしこれに当てはまらない新しい事実が出てきたら、その時考え直せばいいのではないか」と、ホームズ流思考法の一端を述べている。海軍条約文書事件では「(手がかりが)お話の中で7つほど見つかりましたが、それが価値あるものかどうかは、よく調べてからでないとお話できません」と話している。今でいう「筋読み」にも通じるのか。

 本作品は「ホームズが失敗した」となっているが、この推理法はいつものことで、失敗の原因は「まだ確定していないのに、話してしまった」ことだろう。これは相手がワトスンだけだったので、安心して述べたと思われる。これで「失敗」と断じるのはちょっと酷と思うのは私だけ?

 話は、依頼主がホームズと一緒にくだんの別荘に乗り込むことで真相が判明する。秘密の全てを打ち明けるエフィ。それに対するマンロ―のセリフがまたいい。当初は神経質な感じがあったため、マンローの印象が一変し、重たいテーマの作品を明るく終わらせてくれる。結果をみれば、「事件性がなかった物語」としても特筆される。

 「黄熱病」は野口英世の功績もあり、日本人には聞き覚えのある病気で、時代を感じる。

 それにしても最近のイギリス王室の話(ヘンリー王子とメーガン妃)を聞くと、本作品を取り上げるのは、ちょっとタイミングが悪いかな。