【あらすじ】
ホームズはワトスンを連れて兄マイクロフトのいるディオゲネス・クラブへ向かう。そこでマイクロフトと同じアパートの住人で、ギリシャ語の通訳の仕事をしているメラス氏から不可解な話を聞かされる。
メラス氏は得体の知れない男に目隠しをされたままある家に連れて行かれ、通訳として脅迫の手助けをさせられた。そして依頼を済ませて解放される際にも口止めをされ他人に漏らせば自分たちにはすぐにわかる、と脅されたと言う。
その話の内容から、ホームズとワトスンはギリシャから来た娘とその兄が誘拐され、何かの書類にサインすることを強要されているのだと考える。実はマイクロフトはホームズたちが来るよりも先に手がかりを掴むため新聞に広告を出しており、程無く娘の現在の居場所を知っているという情報が彼らの元に届いたのだが……。
【感想】
ホームズの兄、マイクロフトが登場する作品。ホームズに「英国政府そのもの」と言わしめた存在感は、日本で言うと内閣官房副長官、というより鎌倉幕府の大江広元、それとも徳川幕府の天海か(イギリス政府は奥が深いww)。ホームズにも増して特徴的な性格だが、兄弟の性格をよくあらわしている人物設定になっている。
まずは「小手調べ」にホームズとマイクロフトの推理合戦。他愛もない話だが、ホームズも手ごたえがある相手との推理合戦は楽しそう。とは言えその内容を見ると、兄に勝ちを譲った様子。
事件の本論だが、まず事件に巻き込まれた「ギリシャ語通訳」の男メラスが、目隠しされたまま馬車で2時間ほど連れていかれる。冒険の「技師の親指」でも同じシチュエーションを使って目隠しされて連れていかれたが、同じ効果をもたらしている(映画「ミッション・インポッシブル」を思い出す)。そのあと、いかにも危険な男たちに囲まれながらも、監禁されている男と何とか意志疎通して、事件を探ろうとする。
マイクロフトの存在感で初読の時は余り気にならなかったが、メラスは明らかに危険な男たちから「今夜の出来事を話したら、どういうことになるか」「このことを誰かに話せば、われわれはすぐにわかるのです」などと本気で脅かされているのに、マイクロフトは何の防御策も講じず、すべての新聞に広告記事を出している。
ホームズはそれを聞いてもメラスを保護するなどの手を打たなかった。結局メラスは再度誘拐され命の危険に会い、監禁されていた男性は、救いの手が間に合わなかった。この対応はちょっと疑問。いつものような冴えのないホームズ。兄に対しては、ワトスンのようには言えないのかな。
そして最後はいつものホームズ物語とは違い、結論が駆け足で、ホームズのあずかり知らぬところで終わっている。物語だけを見ると、ホームズ兄弟が狂言回しの役割で終わっているように見える。
そのためか、グラナダ放送制作の本作は、事件の終わり方を原作と変え、二人に活躍の場を与えている。最後に悪漢2人を汽車に追い詰め、ホームズは1人をやっつけ、マイクロフトはもう一人を、機智に富んだ方法で捕まえる。こちらのマイクロフトはホームズと異なり、組織の中で生きた、人生の経験を活かした味のある設定になっている。