【あらすじ】
「アベ農園」の屋敷でユースタス・ブラックンストール卿が殺害された。ホームズとワトスンはホプキンズ警部からの依頼を受けるが、現場で出迎えた警部はブラックンストール卿夫人が意識を回復し、解決は時間の問題だと語る。
夫人の証言によると、押し入ってきた3人組の男と鉢合わせした。彼女は殴り倒され、失神している間に男たちは呼び鈴の紐をちぎって彼女を椅子にしばりつけた。その時、騒ぎを聞きつけたブラックンストール卿が現れたが、返り討ちにあったのだという。警部は最近他の場所で目撃された3人組による連続強盗殺人の一つだと推測する。
ホームズは夫人の証言に一旦は納得しベイカー街へと帰ろうとするが、ロンドンへ向かう汽車の中で、現場で抱いたかすかな違和感を無視できなくなり、途中下車して事件現場へ舞い戻る。
【感想】
そろそろ「帰還」から次に移りたいが、ここまで来たら「ホプキンズ警部三部作」を網羅したい(笑)。とは言え本作品は、警部からの依頼にかかわらずホームズは真相を彼に伝えなかったため、警部の捜査は全く違う方向に行って戻れなくなる(本作を最後に、警部が登場しなくなるのもそのためか?)。
目撃者であるブラックンストール卿夫人の証言で事件は解決と思いきや、一つの事象から疑問を抱き、その背後に潜む「真相」を見つけるホームズの慧眼は見事。特に違和感をワイングラスに集中させ、帰りの汽車を飛び降りてまで再捜査することで、視覚的なイメージと劇的な展開が相乗効果となり、強い印象を与えている。
呼び鈴を巡る再捜査により一つの仮説を抱いたホームズは、推理の飛躍で犯人像を絞り込む。この手法と犯人像は、「ブラック・ピーター」を思い出す。そして真犯人が語られる真相。被害者の性格はまさに「ブラック・ピーター」そのもの。そして実際の事件の状況は、「曲がった男」や「踊る人形」のバリエーション、になっている。
そのためか、ドイルは本作品の最後を「大岡裁き」としてまとめた。ホームズがワトスンに言う「君ほど陪審に打ってつけの人物はいないよ」との言葉は激しく同意。そしてホームズも犯人の気持ちを確かめながらも、最後は1年の猶予で幸福をつかむチャンスをしっかり与え、ほっとした読後感を醸(かも)し出している。
エラリー・クイーンならば、この作品を広げて「オーストラリアワインの謎」を創作・・・・・・と思ったら、こんな手がかりを使った作品が既にありましたね(笑)。