【あらすじ】
絵具会社を経営し、今は隠居生活を営んでいるジョサイア・アンバリーから事件の依頼があった。妻と友人のアーネスト医師が内通しており、彼の蓄えの現金と有価証券を持ち逃げしたと訴える。
ワトスンがアンバリー邸を訪れた時、アンバリーは「気を紛らわすため」として家中をペンキ塗りしており、家中がペンキのにおいで一杯だった。
ワトスンがロンドンに戻った翌日、アンバリーがこの事件について情報を知っているという電報を受け取ったとしてベイカー街を訪れる。ホームズは今すぐ電報に書かれた住所へ向かうべきと主張するが、アンバリーは乗り気ではない。渋々ながらワトスンと一緒に電報の住所へ向かうが、そこに住んでいる牧師はそんな電報は打っていないと話す。
【感想】
「事件簿」では終わりから3番目の事件だが、私が最初に読んだ新潮文庫版「シャーロック・ホームズの叡智」では最後に収録されていたため、私からみると最後の事件のイメージが強い。
事件の依頼に対して、他の事件の捜査中と言って、余り乗り気でないホームズ。とは言えワトスンの調査に1は褒め、9は不満をぶつけ、自身で情報を収集しているホームズは相変わらず意地悪い。その上頼りにしている雰囲気を出し、余り愉快でない依頼人とあちこち連れまわされるワトスンは、最後の最後まで(?)気の毒に感じる。
題名にも通じる、ペンキを塗りたくる依頼人。その依頼人の近所の評判。ワトスンを尾行する謎の男。ホームズが打つ電報の指示内容の奇妙なこと。そして最後にアンバリー邸で依頼人とワトスンを待つホームズと謎の男。いろいろな謎がつながって、ホームズが依頼人にする質問は、想像の裏をかくもの。事件の途中に音楽会に行くことも含めて(笑)「場面ががらりと変わる」ホームズ物語がまた見られた印象になる。
しかし嫉妬深くて守銭奴な、外見上は人生に疲れたような人間が、隠居してから二十歳も若い女性と結婚するのは、ハナから「勘違い」しているのだろう。そしてそれ以上に勘違いしたのは、事件をホームズに依頼したこと。外の評判を気にするなんで、この性格では似合わない。ハナから無視するか、違う方法を考えるべきだった。
最後にひとつ。この依頼人と被害者の設定は、エラリー・クイーンが中期に著わした名作で設定した登場人物の関係を思い出させる。