小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

殿堂4 白銀号(銀星号)事件  (思い出)

 時間は既に「草木も眠る丑三つ時(ここでは、午前2時頃)」。小学生としては、夜更かししている背徳感も生まれてくる。そして何よりも、勢い余って読み進めたが、残りはもう2作しかない! 読み進めたいが、終わりたくない不思議なジレンマが生まれてきた。そんな気持ちを抱えながらも、ページをめくる手はやっぱり止まらなかった。

【あらすじ】

 実力・人気ともナンバー1の名馬白銀号が行方不明となり、その調教師ストレイカーが殺害された、世間でも注目されている事件。頭を鈍器のようなもので殴られ、腿を刃物で切られた死体で発見された。死体の右手には血の付いた外科用のメス、左手には昨晩厩舎にやってきた男がつけていたスカーフ・タイを持っており、警察は殺人事件の容疑者としてスカーフ・タイの持ち主、フィッツロイ・シンプソンを逮捕した。関係者から捜査の依頼を受けたホームズは、一つの仮説を軸に、警察とは全く別のアプローチから事件の核心に迫っていく。

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  【感想】

 のちの「バスカヴィル家の犬」でも舞台になったダートムア。荒涼な大地で起こる不思議な事件。正面切っての殺人事件の捜査はこの本の中では初めて。これ以上トイレに行けなくなるのは困ると、ちょっと緊張する12歳の私。

 汽車の速度を測る会話でまず肩をほぐして(笑)、事件の概略をホームズが語る。

 まず、その夜食べたカレー料理で引っかかった(私が読んだ本では、カレー料理の挿絵が入っていた)。そのためその後現れたアヘンとの関係も疑った。だがそれが意味することはわからない。

 続いて現場でのマッチ棒の捜索。得意の「四つん這い」で泥の中からつまみ出す。「わたしはそれを探していたから、見つかっただけです」の言葉が、いかにもホームズ。

 そして近所の厩舎でのホームズの対応。門人には金をちらつかせ、頑固そうな男には脅しとすかしで目的を遂げるその手法に、「ふんふん」とうなずく私。

 最後に「羊の間に発生した奇妙な伝染病」と、「犬の奇妙な行動」の発言。特に犬の行動は、何もしなかったことが「それが奇妙な行動なのですよ」と発言するホームズ。謎を呼び起こし回答は後で。このひっぱり方は、台詞のセンスと合わせて見事の一言。この台詞も、その後のミステリー界に大きな影響を与えている。

 レース当日になり、無事白銀号は出走し優勝する。そしてその帰りで語られた真相はまたビックリ。表面的な事件の景色の「裏の顔」、そしてドイルの、医師の視点から作りあげた事件の構成。よくよく考えれば、死体の状況を医師が調べることで事件の真相に迫れると思うが、そこは野暮(笑)。時は19世紀なのだ。

 ホームズは、ロス大佐を「いささか傲慢」として、事件の解決を伸ばし「彼をからかった」。しかし置かれた状況を考えると、私は今でもロス大佐の対応も無理はないと思っている。一応ロス大佐は依頼人。ホームズも人が悪い(笑)。