小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

15 宇喜多の捨て嫁(宇喜多直家)木下 昌輝(2014)

【宇喜多の捨て嫁】 

「尻はす」と呼ばれる、血や膿が滲み、猛烈な悪臭を伴う病に冒されている宇喜多直家。汚れた着衣は川に流されるが、その着衣を洗って売り物にする「腹裂きの山姥」という乞食がいるという。直家の四女於葉は、自分も川に流される着衣と重なる思いを抱く。主家浦上家の家臣たちの中で、直家の謀略で次々と敵対する勢力が「仕置(暗殺)」されていき、そのためには自分の娘を平気で謀略の種とする。

 

 長女初は嫁ぎ先で直家が重臣を離反させて滅亡させ、初は自害する。次女楓は気がふれて、後に直家が婚家を攻め戦火に焼かれてしまう。そして於葉の婚礼の日、直家は主家浦上家に叛旗を翻し、嫁いでいた三女小梅は夫と共に自害したとの報が入る。そんな於葉は、周囲から「宇喜多の捨て嫁」と呼ばれた。

 

 於葉は宇喜多の家を捨てて、夫の家に尽くそうと心に決める。於葉は婚家後藤家の忠臣が返り忠(裏切り)をする確証を掴み、その男を殺害する。しかしそれは敵を騙して討ち取ろうという策略だったことがわかる。時既に遅く、後藤家の家中が動揺した隙を突いて、直家は攻め入り滅亡する。共に闘う決意の於葉だが、夫から制されて落ち延び、尼となった。

 

【無想の抜刀術】

 老いた直家が自分の少年時代を振り返る。有能な武将だった祖父能家は裏切り者として殺され、直家は母と苦しい生活が強いられる。12歳の初陣で兜首を獲る手柄をするも、既に打ち込まれた矢尻は、浦上家の猛将でかつ祖父の仇でもある島村盛実の物だった。島村は直家に立ち向かうと、直家は無意識に抜刀する神速の剣技「夢想の抜刀術」を使った。その術を見た島村は直家に手柄を譲る。

 

 手柄を立てた直家に喜ぶ母だが、首化粧をする時に矢尻を見て、仇から譲られた手柄首と知ってしまう。命を賭して詰問する母に、直家は無想の抜刀術を振るい、母を手にかけてしまう。その時受けた左肩の傷は大量の血膿を流すこととなり、腐臭を発する。梟雄と呼ばれた宇喜多直家誕生の秘話。

 

【貝あわせ】

 直家は成長し乙子城を任され、重臣中山備中の娘富を娶った。しかし領主の浦上家は兄弟で対立し内紛が激しく、主君浦上宗景は直家に島村盛実を使者として、妻子を新たな人質に求める。そんな中舅の中山備中は直家を見込んで、戦いは力攻めだけでなく、謀で民の犠牲を食い止めることが一番と諭す。

 

 浦上宗景は直家に、舅の中山備中を殺害するように命じる。人質を盾にした命にやむなく従う直家と、それを察して命を捧げる舅。その時を見計らって、島村盛実は直家を返り忠として攻める。油断していた直家は島村と1対1の対話を望み、「夢想の抜刀術」で島村を殺害する。直家を邪魔に思った浦上宗景の企みは潰えたが、実父の返り忠を知り自害した妻の富を見て、直家は主君に対する恨みを身に刻み込める。

 

  宇喜多直家ウィキペディアより)

 

【ぐひんの鼻】

 直家が子供の時に実の母を殺した現場を見た主君浦上宗景は、その事実を隠して直家を家臣として使ってきた。すると直家は主家を凌ごうとする存在にまで成長する。宗景は直家に次々と試練を与えるが、直家はことごとく跳ね返し、謀略でも武力でも、宗景の手に負えない「化け物」に成長してしまった。

 

 絶壁の先にある「ぐびんの鼻」。天狗の修行場と言われ、恐怖を乗り越える場として宗景は唯一立つことができた。自分の息子を直家の婿に入れることで直家の脅威から逃れた宗景は、悠々とぐびんの鼻に立つ。しかし眼下に火縄銃で狙っている者を見て恐怖を感じた時に鼻は折れ、宗景は絶壁から転落する

 

【松之丞の一太刀】

 直家の三女小梅の婿であり、主君浦上宗景の息子松之丞。危険が迫っても何もできない自分は臆病者と感じるが、直家は報復しない勇気を持つ男と評価する。権謀を巡らし多くの人を騙して命を奪ってきた直家から見れば、「表と裏」のように見え、自分の失ったものを持っている人物だった。

 

 父宗景はぐびんの鼻から落ち廃人になってしまい、後ろ盾はなくなった。しかし松之丞は操り人形のような人生を打開するために、直家を「仕物」しようとする。三女小梅に変装して直家の近くに行き一太刀を浴びせようとする。しかし直家の「無想の抜刀術」が放たれ、かつ寸前で直家自らの手で停止させた。

 

【五逆の鼓】

 浦上宗景の兄政宗の家老、江見河原源五郎は鼓の道に魅せられ、直家の誘いに応じて主家を裏切ったために、一族を死なせてしまう。そんな源五郎だが、外をあるくと着衣を洗って売り物にする「腹裂きの山姥」と、その着衣を買う、かつて於葉付きだった武将、井上山兵衛を見かける。

 

*「梟雄」宇喜多直家を、全く新しい視点から描いた作品です。

 

【感想】

「梟雄」と言うに相応しい宇喜多直家垣根涼介の「涅槃」は直家を経済合理性から評価しているが、本作品は「梟雄」の生涯を、真正面から描いた。短篇集で、表題作「宇喜多の捨て嫁」は新人賞を受賞した。

 しかもこの「連作」は、当初から全ての構想が練られていたと思うほど各作品が繋がって、一つの「輪廻」としての役割を成している。その中で共通する「尻はす」と呼ばれる血膿の病気、これが「梟雄」宇喜多直家を象徴している。そして子供から成長していくにつれ、謀略の「化け物」に成長していく過程、もしくは「化け物」にならなくてはいけなかった事情が、とても印象深く書かれている。赤松家とその家老職の浦上家。そして周囲の尼子家や毛利家も含めて、戦いや裏切りが日常茶飯事で、主君も家臣が信用できない状況だった。

 

 ちなみに直家の主君、浦上宗景の父は浦上村。「半将軍」細川政元の姉が嫁いだ赤松家の家宰で、赤松家の実権を握るも「大物崩れ」と呼ばれた戦いで、三好元長に敗れて戦死してしまう。兄浦上政宗の子清宗は黒田官兵衛(如水)の妹と婚礼の日に赤松家から襲撃を受けて、親子とも殺害されてしまう運命を待つ。

 主家赤松家を交えて浦上家兄弟が激しく争うことにより、宇喜多直家尼子経久、そして毛利元就の「中国地方の三梟雄」に付け入る隙を与えてしまう。そして波乱に満ちた室町時代を歩んだ赤松家も、主従共々勢力を衰退させてしまった

 

  

 *大河ドラマ軍師官兵衛」で宇喜多直家を演じた陣内孝則。「曲者」の役がハマります。