小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

14-2 剣豪将軍義輝② 宮本 昌孝(1995)

【あらすじ2 孤雲の太刀―承前】

 

 義輝は松岡兵庫助とともに諏訪神社に立ち寄るが、そこで諏訪御寮人に襲いかかろうとしている熊鷹を見つける。異常な殺気をまとって挑む熊鷹に対して、義輝は剣で遅れを取るも、体を交して命は取り留める。そこに真田幸隆率いる武田の武士が鉄砲で応戦して、何とか窮地は脱した。

 

 諏訪御寮人の案内で甲斐に入るが、義輝は暴れる悍馬を飼い慣らそうとした武田晴信の危険を救い、一同から歓待を受ける。そこで偶然、旅一座の中から真羽を見つけた。真羽は義輝との身分の違いに気がつき身を退いたが、楼主鬼若に連れ去られた後、尾張の農民の子で商売上手な日吉丸に助けられて渡り歩き、鉄砲商人の養子になったという。義輝は真羽を連れて更に東へと向かう。 

 

 鹿島に着いて憧れの塚原ト伝に弟子入りを志願する義輝。しかしト伝は義輝を教えることはないといい、その願いを断る。失意の義輝はそれでも3年鹿島に留まり、独自に修行を続けた。修行の最後の日、義輝の前に一人の能面士が現れて、小枝を片手に義輝を翻弄する。義輝はやがて疲労困憊となり力尽きるが、倒れる直前に木剣が能面士の左肩を軽く突く。

 

 その後別れに際し卜伝と立ち会うが、義輝は卜伝によって高峰に引き上げられる不思議な境地に達し、気が付くと卜伝の木剣を撥ねていた。卜伝と能面士に化けた上泉伊勢守信綱は、義輝は人も剣も不世出の大器と認めるが、足利将軍家に生まれた哀しい運命を思う気持ちも同じだった。

 

 鹿島からの帰路、義輝は斎藤道三の手紙を持った明智光秀に会う。すぐさま道三の遺書と感づく義輝は光秀と懸命に美濃に向かうが、道三は既に亡くなっていた。その手紙を織田信長に託そうとする義輝。道三の導きで、義輝、信長、光秀、そして足軽の日吉丸が顔を合わせる

 

   ’NHKより)

大河ドラマ麒麟が来る」で足利義輝を演じた向井理。理想を求めながらも現実との狭間で苦悩する姿を、気高く演じました。

 

【あらすじ3 流星の太刀】

 

 京へ戻った義輝は、上洛していた長尾景虎と対面する。景虎は将軍家に対する忠孝が厚く、頼みになる大名の一人である。畿内三好長慶が実権を掌握したが、その長慶の元で、右筆上がりの松永久秀が専横を極めていた。久秀は忠誠心の厚い景虎と器量に優れた将軍義輝が邪魔になり、阿波公方の足利義栄を担ぎ出して義輝暗殺を画策する。対して義輝は盟約を結ぶ織田信長長尾景虎らの同盟軍と、五峰王直率いる倭冠の大船団を糾合して松永久秀軍を挟撃するという壮大な奇策を立てた。その奇策を知った松永久秀は最後の手段を取る。そして久秀に金で雇われた熊鷹も、義輝と最後の勝負に打って出る。

 

 大勢の反乱軍を前に、足利家累代の名刀で剣技を見せる義輝だが、鉄砲の一斉射撃を浴びて遂に力尽く。そして義輝の子を宿した真羽も捕らえられて斬首される。しかし真羽の前に、かつて刑死されたお玉の子を産み落とす秘術「愛宕飯綱の法」を修得した九条稙通が現われて、お腹の子を蘇生させた。海王丸と名付けられた義輝の子は、梅花に連れられて瀬戸内海を西へ、平戸へと向かう。

 

   足利義政以降の将軍家家系図



【感想】

 天才を描くには、作者の想像力と共に、読者を納得させる「筆力」が必要になる。本作品ではまず義輝が剣の奥義を極めて、塚原卜伝の木剣を打ちはらう場面が秀逸。高峰に雲を突き抜けて引き上げられて、眼下には山嶺が続いている。その大自然の中にぽつんと立つ義輝と、傍らに立つ卜伝。卜伝に声をかけたとたん、勝負は決していた。まるで釈迦と孫悟空の違いを見ているかのよう

 もう1つは義輝と信長の会話。信長は結論しか言わず、秀吉を除いて周囲は真意を理解できないが、単語のみを語る信長に単語で返す義。言葉の背景に各人の事情があり、勢力分析があり、時機を見通す算段がありと、それらを全て理解した上で周囲を置いて進めていく会話のやり取りは、それこそ人智を越えた、テレパシーの交信をしているかの印象を受ける。それとも数百手まで読みながら一手一手を指し合う棋士名人戦か。

 

  松永久秀ウィキペディアより)

 

 義輝の凄惨な最期。時代劇と違い多くの敵をなぎ倒すには、刀に人の脂が浮いて切れ味は悪くなる。そのため義輝は、足利家類代の名刀を何振りも畳に突き刺し、斬っては刀を代えての繰り返しを行い、1人で何人もの敵をやっつけたという。最後に久秀勢は、勢を頼み畳で四方から義輝を押さえつけてようやく仕留めた。塚原ト伝直伝の「一の太刀」によって最後に生命を躍動させた姿は、これまた名作 「竜馬がゆく」で命の炎を最期に躍動させた姿を彷彿とさせる。

 13代将軍足利義輝は、実際には細川、三好、松永などの軍勢によって時に近江に逃げたり、時に和睦して京に残ったりと綱渡りをしながらも、地方の実力のある大名たちと連携をして将軍の勢威を高めようとしていた。そんな真摯な将軍の姿を見て、近習の細川幽斎明智光秀は惹き付けられる。反面弟の15代将軍義昭は、それぞれが織田配下で将軍から離れることになる。

   歴史に埋もれた悲運の将軍に、新たな魅力を吹き込んだ壮大な物語。やや詰め込みすぎの感もあるが(^^)、義輝を軸にして「戦国オールスターズ」を見事に結び付けた力作。そのため作者にも「余熱」が生じたのだろう。「異聞」で本作品の周辺を描き、そして次作「海王」では、本作品の最後で生き延びた義輝の子海王が成長し、今度は倭寇の棟梁として海を舞台にした新たな活躍を,やはり壮大なスケールで描く。