小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

13 覇道の槍(三好元長)天野 純希(2014)

【あらすじ】

  「半将軍」と呼ばれた細川京兆家(本家)の当主細川政元が謀殺された後の家督争いで、阿波を地盤とする細川澄元は細川高国との戦で敗れ、家宰の三好之長は処刑された。後を継いだ孫の三好元長は、祖父の民をも犠牲にするやり方に反感を持ち、平穏な世をもたらすために戦うことを決意する。元長は将軍足利義晴の兄弟である足利義維、細川澄元の遺子六郎(のちの細川晴元)らと領地の阿波に戻り、捲土重来を喫していた。その時元長は、父が侍に殺害されて、侍を恨む久一郎という孤児を引き取り、人里離れた峡谷で命をすり減らすような厳しい忍びの修行を強いた。

 

 戦いに勝った細川高国側も内紛が起き、丹波の国人柳本賢治が反旗を翻したのを見て三好元長らは阿波で挙兵し、細川晴元を擁して上洛する。三好元長柳本賢治の軍勢と合流し、足利義維堺公方として12代将軍義晴に対抗し、京を奪還することに成功する。当時勢いのあった越前国朝倉宗滴を密かに味方につけて高国軍を駆逐し、新たな畿内支配体制を確立する。

 

 播磨では再興した赤松家の家臣、浦上村宗が主家を凌駕する勢いで、細川高国と組んで更なる野望を抱いていた。柳本賢治三好元長細川高国浦上村宗軍と戦って退けるも、三好元長は久一郎に、自らに従わない柳本賢治の暗殺を命じた。そのため戦力はダウンし、旗色が悪くなった三好元長は、今度は相手を撹乱する策を取った。浦上村宗の主君の赤村政村が、かつて父が浦上村宗に殺害された恨みを利用して、途中で裏切らせて浦上村宗を戦死させ細川高国軍を壊滅させることで、堺公方の窮地を脱した(大物崩れ)。

 

 三好元長ウィキペディアより)

 

 すると名門細川の京兆家を継いだ細川晴元が、それまで兄事していた三好元長の存在を邪魔に思う。そこに河内国守護畠山義堯の家臣である守護代木沢長政細川晴元と接近し、畠山義堯と組む三好元長細川晴元を離反させるように策略を巡らす。三好元長は畠山義堯と共に木沢長政を包囲し勝利は目前だったが、木沢長政の讒言を信じた細川晴元は、一向宗徒を利用して背後から元長を攻撃する。一向宗徒の軍は10万に膨れ上がり、一転して窮地に陥った元長は自らの命を犠牲にして妻子、そして堺将軍の足利義維を逃がした。享年32歳。

 

 一向宗徒を利用した細川晴元だが、その後一向宗に対立する法華宗徒も戦いに介入して抑えのきかない状態になってしまい、細川晴元も堺から淡路島へ敗走することになった。そこへ久一郎が元長の遺命を細川晴元に伝える。足利義維を阿波に戻し、三好元長の遺児を細川家に帰参させること。木沢長政に騙されて元長を死に追いやった細川晴元だが、三好元長は最後まで細川晴元を支える策略を考えていた。

 

 本来は三好元長を裏切った細川晴元の命を奪いたい久一郎は三好元長の遺児の三好長慶に仕え、父元長譲りの世間への甘い見方を、自分が汚れ役となって補おうと決意する。

 

nmukkun.hatenablog.com

*本作品は、こちらの作品の後につながる物語になります。

 

【感想】

  「半将軍」細川政元の死から「剣豪将軍」足利義輝までの京都を埋めた作品で、この時期の京都も私の苦手分野(何だか苦手ばかりに思えてくる……)。嫡子を持たない政元の死で、細川高国と細川澄元の家督争いが起きる。最初は四国探題でもあった阿波細川家出身の澄元が優勢だったが、本家京兆家から出た高国に流れは変わる。その後澄元は亡くなり、遺児の晴元と阿波国家宰の三好家は一旦阿波に退くが、再度京を奪還する。

 将軍家も12代将軍足利義晴(13代義輝、15代義昭の父)とその兄弟の義維(14代将軍義栄の父)で争っていた。畠山家は応仁の乱以降、二統が争いを重ねる中で家臣も主君と対立し、赤松家も主君政村と父の敵である浦上村宗と対立。また主人公の三好家内でも叔父との対立もあり、かつ戦いによって敵と味方が入れ替わるなど「複雑怪奇」な人間模様を描いている(そのため【あらすじ】も、今回は極力フルネームを記載したが、やはり頭の中が混乱して今一つである)。

 

 * 足利義維は将軍に任命はされず、「堺公方」とも「阿波公方」とも呼ばれました(ウィキペディアより)

 

 応仁の乱以降続く一族家臣の内乱が各所で極まった。阿波細川家の家宰、三好元長は世に静謐をもたらす理想を将軍足利義晴の兄弟(どちらが兄で弟か明確ではない)である義維、細川澄元の子晴元と夢見るが、目の前で起きる敵味方が入り乱れる戦いによって、元長も手段を選べなくなってしまう。元長が嫌った力を信奉する祖父之長と、乱世で犠牲者となる代表として少年の久一郎を対比させつつ、三好元長は久一郎に、自らの理想を語りながらも、久一郎に「汚れ仕事」命じる矛盾をさらけ出すことになる。理想と現実の狭間で苦悩する「恩人」元長を、少しでも手助けしたい久一郎。

 少年の時に将来を語りあった細川晴元とは結局敵味方に分かれてしまう。晴元は戦いに勝つために一向宗徒の力を借りたが、これにより宗教戦争が拡大して晴元の手に負えなくなる。10万とも言われる一向宗の攻撃に耐えきれず三好元長切腹したのが1532年だが、その4年後には延暦寺法華宗の対立を軸に20万近い僧兵が参加する天文法華の乱が勃発する。その戦いにおける京洛の被害は応仁の乱を超え、都は完全に灰燼と化した。応仁の乱の後、京都を中心にこれだけの戦が起きていたことは、本作品を読むまで正直認識していなかった。

 そして阿波に退いた三好元長の嫡子、長慶は4兄弟で協力して再度上洛し畿内を支配。堺公方と呼ばれるも正式な将軍になれなかった足利義維だか、13代将軍義輝が殺害されることによって、子の義栄が念願の14代将軍に就任する(義政の弟義視と、その子の10代将軍義稙を思い出します)。

 

 応仁の乱後の錯綜した京都情勢を、普段光が当たらない三好側から描いた物語。しかも最後にはちょとしたサプライズも用意していて(ここでは触れない)、作者天野純希の力量を「見せつけた」作品です。

 

   

 *幼い時分に三好元長足利義維と夢を語らい、そして裏切った細川晴元ですが、晴元もその後波乱の運命を歩みます(ウィキペディアより)。