小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

12-2 じんかん②(松永久秀) 今村 翔梧(2020)

 

 大河ドラマ麒麟がくる」で松永久秀を怪演した吉田鋼太郎。「梟雄」松永久秀を人間味のある人物として演じ、新たなイメージを作りあげました。

 

【あらすじ】

 松永久秀が2度目の反乱を起こしたと聞いて、織田信長は安土の天守で、久秀の人生を小姓の狩野又九郎に語り始めた。浅井長政の裏切りで皆が動揺する中、久秀は「神はいない・・・・仮にいたとしても、このような理不尽な神です。従うことはありませぬ。叛いてやりましょうぞ」と言って動揺を鎮めた。松永久秀という人物は、どのような生涯を経てその言葉を吐くに至ったのかを、信長は知りたいと切望した。その後久秀から、夜を徹して聞いた生涯を、又九郎に語り続ける。

 

 久秀は阿波に戻ると三好家の家宰となり、元長の子長慶を支える。大和を支配し築城し、幼い日の思いを込めて多聞山城と名付けた。京の公家たちにも、武野紹鷗から学んだ茶の湯などを利用して交流を深め、三好家の家運復興に尽くす。しかしその折に三好家の内で「三好三人衆」と呼ばれる一族と久秀の間で勢力争いが起きる。

 

 当主の長慶は、立て続けに兄弟や長男を失い、疑心暗鬼に囚われながら病死してしまう。嫡子はまだ幼く、久秀は長慶の死を2年隠すと決める。しかし噂は自然に広まってしまい、久秀と三好三人衆の対立は先鋭化していく。

 

 三好三人衆は久秀の息子久通を引き入れて、将軍足利義輝を殺害してしまう。久秀は妻が逃げたため、息子久通には遠慮して自由にさせていた。対して久通は父久秀との距離を感じたこともあり、三好三人衆の口車に乗せられて「暴挙」に参加したものだった。久秀は自らに着せられた将軍謀殺の風評を、甘んじて受ける。

 

  *久秀の主君、三好長慶ウィキペディアより)

 

 この悪評によって三好家と松永家は周囲の豪族から攻撃の的となり、久秀の弟も支配下丹波で国人たちの反乱に会って命を落とす。三好三人衆はこの機に乗して、宿敵の筒井順慶と手を組んで、久秀を討とうとしていた。敵は東大寺を砦代わりにして、多聞山城へと攻めてくる知らせが久秀の陣に入る。

 

 重傷の中その知らせを告げた一人の民は、その場で息を引き取ってしまった。大和の民の声を聞いた久秀の檄は、東大寺大仏殿で安心している敵に対して、全軍で攻め込ませた。敵を蹴散らした業火は大仏殿を焼き尽くす。

 

 筒井順慶は、久秀に情報を流した者の縁者をことごとく捕らえ、命を奪おうとしていた。久秀はその者が、幼い頃に本山寺で一緒に過ごし、奈良の薬屋に嫁いでいた日夏と知ることになる。以前は主君の三好義継が気の迷いで信長に逆らったのを諌めるために、先んじて反逆した。今回は日夏の縁者を救うことを条件として信長に反旗を翻した久秀だが、信長は順慶を止めるまでの余裕はない。

 

 信長から久秀の一生を聞いた小姓の狩野又九郎は、征伐に来た織田信忠軍と、筒井家及び東大寺の間に立ち、懸命の説得で日夏の縁者の命を救うことに成功する。それを聞いた久秀は、東大寺大仏殿が焼けた日、即ち日夏の命日の日に、自らの命を終える決断をする。

 

 信長は、度重なる久秀の反乱にも、命を奪おうとする気持ちはなかった。

 

 

【感想】

 梟雄として名高い松永久秀を、主君への忠誠を通したと本作品では描いている。織田信長の上洛の際も早々に従うことを表明し、その条件は三好家の安堵のみ。本領安堵を受けるも松永久秀よりも少ない封土に不満を持つ三好長慶の子義継は、信玄が上洛する機会を狙って反乱を起こすも、松永久秀は三好家の存続を求めて信長に反旗を翻す。

 そして最後は、少年時代の唯一の甘い思い出であり、その後会うことがなかったが、久秀のために命を落とした日夏とその子や孫を救うために、信長に再度の反乱を起こす。作者は、信長は度重なる久秀の反乱にも、命を奪おうとする気持ちはなかった、と本作品では結論づけている。

  

 *茶道の祖、武野紹鷗。茶道がまだ流行になる前に久秀と交流があったと描き、茶器「平蜘蛛」のエピソードにも繋げています(裏千家HPより)

 

 峻烈な織田信長が、松永久秀に対しては対応が甘く、それが様々な想像を生む。歴史では久秀は織田信長にとって「使える」人材であったからと理由付けて、私も単純にそのように思っていた。しかし作者今村翔梧はその疑問の自分なりの回答を、長大な物語を付けて読者に突き付けた。

 最初は余りにも綺麗ごと過ぎて、従来の松永久秀とはかけ離れたイメージに対して、ちょっと抵抗があったが、読み進めるうちに「松永久秀」ではなく1人の「サーガ」として徐々に物語に入り込んだ。日夏という人物の使い方、三好長慶に対する優しげな視線と、その反対に足利義輝に対しては厳しい言葉で切り捨てるなど、従来とは違う角度から松永久秀を描き切った。その「違う角度」を描くために、性格を紐解く人物として「同類」と思われる織田信長を使ったのは秀逸だった。

 

 最近は様々な描き方をされている松永久秀。しかし私からすると、やはり松永久秀は「梟雄」として描いて欲しい気持ちも捨てきれない。花村萬月の「弾正星」は、「期待通り」に悪逆非道を繰り返す人物として描かれている。対して宇月原晴明黎明に叛くもの」は、ペルシャの暗殺法を学んだ美貌の松永久秀が、斎藤道三と「共に天下を二分せん」と誓い、下剋上を成し遂げていく物語。

 

 これだけの「振れ幅」で同じ人物が描かれるということは、それだけ人間の幅が大きく、また謎の部分も大きいため。すなわち作家の想像力を刺激する人物、ということなのだろう。

 

 よろしければ一押しを <m(__)m>