小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

14-1 剣豪将軍義輝① 宮本 昌孝(1995)

【あらすじ1 鳳雛の太刀】

 

 11歳で室町幕府第13代将軍となった足利義輝だが、初陣は惨めな敗北に終わった。将軍の後見役の立場で権力を掌握しようとした父足利義晴と、幕府管領細川晴元との対立が戦い。剣には自信があった義輝だが、多勢に無勢でまともな戦闘を行なわずに遁走する中、真羽という少女と、父が殺されたばかりで凶暴な熊鷹という男と出会う。

 

 真羽に心を引かれた義輝は戦場から救い出すが、すぐに仮御所を抜け出してしまう。部下の細川輿一郎藤孝らに捜索を命じると、女郎街でそれらしい少女を見つけ、救出に向かうがそこで楼主鬼若に襲われて窮地に立たされる。そこを通りすがりの武芸者である朽木鯉九郎が、凄まじい剣技で義輝を救った。

 

 そのころ父義晴は精神に異常を来していた。三好長慶を敵視した三好宗三の策謀に踊らされて、義輝の母親代わりだったお玉を手籠めにした後、お玉と許嫁の新五郎に死罪を申し渡す。余りにも過酷な運命を歎く義輝は、影で操っていた三好宗三に対して、お玉の仇を討った。

 

 足利義晴との戦いに勝った管領細川晴元だが、家臣の三好長慶が主家を凌ぐ勢いを持ち、四国から軍勢を整えて一路京に向かう。細川晴元は敵だった幕府と手を組んで対抗するが、三好軍の前に軍は瓦解した。三好長慶は京洛で権力を掌握するために、謀臣の松永久秀を使って将軍義輝に暗殺を命じる。

 

 これを知り義輝は武者修行も兼ねて京から落ち延びる。名を霞新十郎と変え、目的地を鹿島の塚原卜伝と定めて、鯉九郎の従者で忍びの浮橋と共に諸国巡業の旅に出る。

 

  足利義輝ウィキペディアより)

 

【あらすじ2 孤雲の太刀】

 

 ところが旅の最初は梅花(めいふあ)という美しき女性によって、九州は平戸へと連れられ、そこで海を自在に操る倭冠の棟梁、中国は明出身の五峰王直と対面する。当時倭寇明王国の屋台骨を揺るがす力を持ち、明は近々海禁政策の廃止することによって倭寇は自然消滅すると考えていた。五峰王直は倭寇が滅ぶ前に、義輝が海の棟梁となって王国を築き上げることを求める。征夷大将軍たる義輝はその申出を受ける訳にはいかないが、五峰王直の話とその人柄は、義輝の心に深く残るものがあった。

 

 平戸から義輝と浮橋は東へと舞い戻り、美濃では斎藤道三に出会う。蝮と呼ばれた国盗りの梟雄も、年老いて自らの人生を達観していたが、人を見る目は尋常ではない。霞新十郎と名乗る義輝を見て、側に仕える塚原卜伝の高弟、松岡兵庫助と立ち会わせる。その兵庫助が新十郎に足利義輝公ではないかと尋ねたとたん、道三は側に仕える女を一刀両断にする。息子齋藤義龍の間者と見破り、将軍来訪の情報を義龍に入れないために、瞬時に判断したものだった。そんな道三は義輝の器量を見抜き、そしてもう1人己が認めた器量人、織田信長と結びつけようとする。

 

  *父、足利義晴ウィキペディアより)

 

【感想】

 先に紹介した「覇道の槍」と時系列が繋がって、廃墟と化した京都から物語はスタートする。

 足利将軍は9代以降混迷が続き実権を失い、13代将軍義輝も臣下に暗殺された人物との乏しい知識だったが、作者は29歳で亡くなった若者に新たな魅力を吹き込み、壮大な物語を紡ぎ上げた。 

 幼くして将軍に就任した足利義輝は「武家の棟梁」とは名ばかりで、家臣たちが戦いを繰り広げて、その止める手立てもなく権威も権力も失った状態。そして自ら磨いたはずの剣術も、実戦では頼りにならない。将軍でありながら剣技を極めるために、引いては天下を統べるために、真っ直ぐな気持ちで目の前の困難に取り組んでいく。その姿勢とにじみ出る器量に、周囲の者たちに広がって、固い絆の家臣団が出来上がっていく。

 朽木鯉九郎、浮橋、細川輿一郎藤孝など。この主人公の造形は、「北方南北朝」の若き主人公、北畠顕家懐良親王と重なる。 対して「剣豪」が成長していく上で欠かせない、熊鷹や鬼若といった「生涯のライバル」も序盤から登場させて、「冒険活劇」を描いていく。

  (ウィキペディアより)

 *細川藤孝(幽斎)~生前は長岡姓で、管領の細川家とは関係ありません(但し将軍の落胤説も)

 

 そして倭冠とも繋げて、九州から関東にかけてスケールを広げて物語は展開する。このあたりは高橋克彦の  「時宗」か。但し時宗は兄時輔との連携だが、本作品は義輝1人の魅力でその裏付けをしていく。

 足利幕府13代征夷大将軍としては無力だった存在の義輝。幕府を再興するためにも、旅に出て剣の技量を、そして己の器量を磨こうとして向かった先は、この時代に独得の光を放つ剣豪、塚原卜伝。その中で義輝と邂逅する「戦国オールスターズ」の武将たちも、若き将軍に心を動かされて、それぞれが義輝に対して力を貸そうとし、足利幕府の再興に向けて大きく動き出していく。

 但しそこにはもう1人。権力を一手に握ろうとする「下克上の権化」松永久秀もまた、「生涯のライバル」として立ち塞がる。

 偶然ではあるが、三好側そして松永久秀側から描いた「覇道の槍」と合わせて読むと、「敵味方」の理解が進む。三好元長の嫡子長慶は、父を裏切った主君の細川晴元を最終的に追放し、室町幕府創設から管領家として君臨した細川家を没落に追い込んだ。

 そして長慶死後、今度は松永久秀が三好家を裏切って下剋上を完成させるが、それはまた先の物語。

 

  ウィキペディアより)

*「覇道の槍」三好元長の嫡子三好長慶は、管領もそして将軍も凌駕する勢力を持ちます。