小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

19 応仁秘譚抄 岡田 秀文(2012)

 ミステリー作家としての顔も持つ岡田秀文は、歴史小説でもミステリーの要素をまぶす作品がある。「関ヶ原」や「賤ヶ岳」など、1つの事象を何人もの人物の目から描いて、全く違う景色を見せる。その最たるものが、足利義政を主人公とした本作品。連作短篇集の形式をとり、最初の3作品は日野富子が小悪魔っぽくもカラ回りする姿が滑稽な味を出している。

 しかし最後の作品で繰り出される強烈な「反転力」は、まるでアガサ・クリスティーの作品を彷彿とさせる。

  足利義政ウィキペディアより)

 

第1話 義視

 まだ子がいない兄の足利義政から、門跡に居る義尋に将軍職を譲るので還俗するように話が来る。義政は30歳前で今後男子誕生の可能性もあるが、仮に男子が誕生しても出家させ、義尋の後見人に管領の実力者、細川勝元が付くという。話を信じた義尋は還俗して名を義視と改める。

 義政の妻、日野富子も小柄でまだ若々しい姿で義視に接待を見せる。良い気分になったがその富子が懐妊して、恐れていた男子が誕生する。あれだけ固い約束だったが、なかなか将軍職を譲らない義政。そんな中いよいよ応仁の乱が勃発する。

 細川勝元が後見のため、義視は義政とともに東軍に付く。対して西軍は山名宗全を主軸に、子義尚を次代将軍に願う日野富子が支援する。西軍有利とみるや一旦義視は逃げだし、その後京に戻った義視は、今度は西軍に取り込まれる始末。何とか東西の融和を図るが、義視の力ではどうにもならない。

 結局義尚が9代将軍となった。兄義政に振り回された挙句美濃に落ち延びる。しかし義尚が早逝してしまい、思いもかけず自分の子、義材が10代将軍となる。万感胸に迫る気持ちを抱えて、その半年後に病没する。そのため息子10代将軍の「流浪将軍」と悲劇を見ることなく生涯を終えることができた。

 

第2話 富子

 雅で教養も高い義政に嫁いだ日野富子だが、乳母の今参局が義政に男女の手ほどきを教えていることを知り衝撃を受ける。そして夫義政は、富子が25歳の時に弟の義視に将軍職を譲ると宣言する。夫は頼りにならないと弟の義視を誘惑するが、義視は鯨飲して眠りこけて失敗する。富子はこの兄弟とはつくづく相性が悪い、と嘆息する

 そんな富子もついに子を産んだ。義視に遠慮する義政を尻目に、富子はわが子を将軍にしようと奔走する。当時圧倒的な力を有していた山名宗全を後見として、義政と細川勝元に対抗する。

 応仁の乱が勃発するが、何もしない義政に苛立ちながら、富子は子義尚のため幕府のために金を稼ごうと決意する。御所に集る情報を元に東西両軍の大名たちに貸付をおこない、その利子によって洛中一の長者となった。富子はそのお金を使って義尚に一流の家庭教師をつけて文武の才能を磨かせる一方、怠惰な義政に代わって1人で武将たちと交渉し、朝廷の務めを果たし、訴訟の決裁をする。頭が痛いがそれも我が子義尚のため

  日野富子ウィキペディアより)

 

 そして応仁の乱が終わり、富子は義尚に後を任せるが、未熟な義尚に対してつい口を出してしまう。挙げ句の果てに、義政の愛妾に義尚は心奪われて親子喧嘩をしているという。夫の浮気相手と息子の関係を仲裁するわが身が情けなく、強い口調で義尚をたしなめる富子に対し、反発する義尚。

 義尚は富子から離れて、片時も酒を手放せなくなった。世相は混乱し、全ての怨嗟は富子に向かうが、富子はなぜ自分が責められるのかわからない。そんな中義尚は戦陣で病を重くして亡くなってしまう。

 

第3話 勝元

 傍若無人で人を威圧する「赤鬼」山名宗全。13歳で家督を継いだ細川勝元に、そんな山名の娘との縁談の話が舞い込んだ。有力者の後見を得て若くして管領職に就くが、将軍義政は寺社に露骨に献銭、献物を要求し、側近政治がまかり通っていた。乳母の今参局までもが政事に口出ししており、それを食い止めるため将軍義政の実母重子は、実家から日野富子を嫁がせる。美しくも芯の強さと聡明さを感じる富子だが義政の行状は改まらす、斯波家や畠山家の相続に介入して応仁の乱の火種を作っていた。

 今参局が亡くなると義政は気落ちして、弟の義尋に将軍職を譲ると言ってきた。富子に嫡子を産むように進言する勝元に、富子は最近義政が閨に足を向けないと言って勝元を誘惑し、そして数ヶ月後富子は懐妊する。義視を後見する勝元の立場から、嫡子を将軍職に勧めるわけにはいかないが、機嫌を損ねた富子はよりによって山名宗全に後見を頼んでしまう。そして一度は勝元と協調した宗全は、その後ことごとく対立することになる。勝元も決意を固めた。

 応仁の乱が勃発して、緒戦は準備をしていた山名軍が優勢だったが、勝元は徐々に挽回していく。但し担ぐ義視は腰が定まらず、ひいては逃亡してしまう。反攻した勝元は相国寺の戦いで室町御所を守り抜いたが、義政はあろうことか戦いの中、仏頂面の富子を連れて酒宴と延々と繰り広げていた

 宗全と和睦交渉を始め、整ったかに見えたが部下たちが収まらない。責任を感じた宗全は切腹した。勝元もその意を受けて戦闘を中止したが、病を得て届けられた薬には毒が混入されて、勝元はこと切れる。

  細川勝元ウィキペディアより)

 

第4話 義政

 それまで各人が自分の思惑に振り回されて、その中で自分の思いと別人から映る義政の姿の差異を軽妙に描いてきたが、ここにきてガラリと様相を変える。東山慈眼寺の老いた庭師が語る義政の真実。それまでの伏線が一気に回収されて、表面とは全く違った義政の「真意」が浮かび上がる。

 果たして義政は怠惰な将軍に過ぎなかったのか、それとも富子を含めて武将たちも皆、義政の手の上に踊らされていたのか・・・・

 

 井上靖後白河院」を思い出させる、周囲から本人の像に迫ろうとする、見事な構成。

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