【あらすじ】
日本最大の広告代理店「連広」で、抜群の実績を残して常務に就任した城田毅は、連広を更に大きくして自身の野望を確固たるものにするため、強引なやり口でオリンピック、プロスポーツや博覧会、そして選挙など、様々な事業に介入して指揮を執る。各業界のトップ企業の広告扱い独占、広告第二位「弘朋社」への圧力など、手段を選ばず強行する。
一方、過労死した連広社員の妻・真美は「思いやり雇用」制度によって連広に入社し、城田の秘書となった。真美は当初、連広及び亡き夫の上司であった城田に憎悪を持っていたが、城田の秘書として働くうち、「仕事の鬼」として取り組む姿に魅了されていく。そして城田は社長に就任し、「帝王」として連広に君臨する。
【感想】
作者の鷹匠裕は、東大卒業後広告業界第2位の会社(弘朋社?)に就職し、コピーライターを主に営業も経験して、定年で雇用延長せずに退職する。その後作家活動に入り、会社時代に味わった「苦渋」を、「義憤」をバネにして本作品として描いた。
*やはり広告業界第2位の視点から描いた作品です。
但し小説の視点は工夫されている。過労死した社員の妻を「思いやり雇用」として城田の秘書に仕えさせて、城田の間近から見た視点も交えて「帝王」を描いている。ワンマン社長が「帝王」として君臨し、傲岸不遜な言動を取る様になるのはどの経済小説でも描かれている。但し「帝王」も人の子。出世するには人としての魅力も無ければならない。仕事に対しては一切妥協せず、恐怖や恫喝だけで支配するのではない、普段の素顔や情に厚いところも真美の視点から拾っている。ライバルから見た「帝王」は、憎き敵であるが故に、味方だったらこの上なく心強い大きな存在に映ったはずである。まるで戦場では勇猛果敢な侍大将の姿か。
現実の会社「電通」は発祥の通信社の名残りがあるため勤務時間の管理はルーズで、本作品でも組合との残業時間の合意が180時間と、過労死レベル✕2倍を超える時間が認められているのは驚き(明らかにしているのは潔いとも言えるが・・・・)。クライアントから広告を取るのに、本来はコンペによる競争原理が働くべき。但し日本の広告業界は「ガリバー」が、接待と忖度により相手の心を掴むことに「昼夜の区別なく」勢力を傾ける。そして場合によっては広告媒体を牛耳る「力」もちらつかせる。これではライバル社との競争原理は働かず、内部では「必達」のために際限の無い労働時間が必要になってくる。
2015年、新人女性社員が過労死した事件で、マスコミを支配する電通に対する「タブー」が解除されたかのように見える。そして最近になり本社ビルを売却するニュース。テレワークの浸透や業績悪化によるリストラを理由としているが、「電通鬼十訓」ではこれからの時代、進めていけず、何よりもインターネットの普及などで、従来の広告媒体に大きな変化が起きている。本作品の主人公・城田は2011年に亡くなるが、亡くなる前に東日本震災でほとんどのCMが自粛しているTVを病室で見るシーンが印象的に描かれている。この感覚は広告業界の経験がないと生まれないだろう。
但し電通はそう簡単に存在感が無くなることはない。コロナ禍で行われた持続化給付金事業や、家賃支援給付金事業でも政府からちゃっかりと利権をもらい受けて問題を起こしている。そして東京オリンピックでも…… その「腕力」、そして「脇の甘さ」は共に健在である。
余談だが、本作品ではつくば科学万博(1985年)を牛耳るくだりも描かれているのを見て(また)ゴルゴ13を思い出した。「シーザーの眼」という作品で、日本一の広告代理店「博通」に勤務する人物を主人公としている。いつも終電に間に合わない(笑)モーレツサラリーマンだが、クライアントが博覧会に出展することに対して妨害工作を受け、ゴルゴ13と協力して妨害を阻止する物語。サラリーマンの枠を超えた活躍も、変なところで納得してしまった。