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【あらすじ】
山里香純、41歳。新卒で就職した会社に不満はなかったが、20代最後の1年で同級生の彼が年下の女性と突然結婚し、職場の後輩も立て続けに結婚退職をして、その閉塞感から逃れるように退職してしまう。紹介された中堅の広告代理店でなぜか創業者の夫人に気に入られ、そして御曹司である永澤一憲からプロポーズを受け手、31歳で「玉の輿」結婚となる。しかし男側の夜の営みの不具合がきっかけで徐々に心がすれ違いとなり、6年半に及ぶ結婚生活に分かれを告げる。
離婚の条件としてそのまま会社で働いて、女性で唯一のAE(アカウント・エグゼクティブ:法人営業)として仕事を切り回し、周囲から一目置かれる存在に成長する。ところが、クライアントの広報部にかつて一夜をともにした広崎研吾が再度配属となり、新たな展開が。2人で手がけた生命保険会社の不払い問題に対処する「お詫び広告」が思わぬ波紋を呼び、クライアントの会社に問題が生じ、そして香純の身辺に危険が迫ってくる。
【感想】
AE(アカウント・エグゼクティブ)は1999年に林真理子が「コスメティック」で描いているが、それから約10年経過し、主人公も年齢を10年重ねた設定の作品となっている。本作品では特に触れられていないが、年代でいくと男女雇用機会均等法の先頭ランナーの年頃。ちなみに同年の2008年、流行語大賞で「アラフォー」が受賞して、この年代の女性も「団塊の世代」のように、1つの象徴となっている印象がある。
高杉良の「その人事に異議あり」もそうだが、広報担当の魅力的な女性が、なぜか20代に一度は恋が実らず仕事に打ち込むことになり、そして30代でより高スペックの男性からプロポーズされる。男性側から見れば「?」が付くところだが、1度仕事を選んだキャリアウーマン(死語)も、後からでも幸せは掴むことができるのだよ、と共感を求めているかのよう(やや棘があるかな?)。
*女性の広報担当者を描いた作品が、本作品も含めて3つ並びました。人物設定も何となく似ています。
それから見る本作品は「その後」の印象もある。紆余曲折の上仕事を続けてアラフォーに突入した香純。男性顔負けで仕事をこなし、若手の男性社員を教育しつつも、若いイケメン男性と逢瀬を楽しむ。全てを手に入れているような生き方は、同世代への働く女性へのエールの意図があるのだろうか。
但しそのために犠牲にするものも少なくない。深夜までの残業で、休日ライフは全く描写していないのを読者はどう思うのか。「電通事件」でおわかりの通り、広告業界にライフワークバランスは存在していないことを描いているのか。そしてもう一人の40代、会社で「お母さん」と呼ばれる井村博子を登場させて、主人公の女性像に「補助線」を引いている。
物語は主人公の香純を中心に、元夫で社長の永澤一憲と、年下のイケメン、クライアント側の広崎研吾と3人の視点で描かれている。アラフォー女性の「本音」とそれを見守る男性2人の視線を描いているが、途中から広崎の存在感が急速に失っていく。妻がいてマザコンを匂わせ、香純が引いてしまう場面が印象的。いろいろなものを手に入れているように見える香純も、現実はそんなものなのか、と思わせる。その反面、視点を3人にバラした効果がちょっと疑問にも思える。
もう一人の40代、井村博子の役回りも容赦ない筆致で描かれている。ある意味女性の1つのモデルを集約したものか。これも作者が女性だからこそ描ける「女性像」。
広告代理店とクライアントの関係を描いた本作品。クライアント側は救いようがない人間が集まり、広告代理店側はそんな人間にひたすら頭を下げる、理に合わないが典型的な社会の構図を描いている。そして男女の結末も古典的か(笑)。
そんな中で、タイトルの「cc:カーボンコピー」はうまく意味を持たしている。
*幸田真音のデビュー作です。