小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

番外 継続捜査ゼミ 今野 敏 (2016)

【あらすじ】

 「伝説の刑事」と呼ばれ、警察学校の校長を務めていた小早川一郎。幼馴染の学長に誘われ警察退官を機に三宿女子大で教鞭をとることになった。准教授から教授になり、ゼミを持つことになる。実際の捜査手法を学び、経験するのが目的というゼミの名前は「刑事政策演習ゼミ」、別名「継続捜査ゼミ」。

 警察学校時代の生徒で目黒署の安斎の協力を得ながら、小早川はある未解決事件をゼミで取り上げる。

 

【感想】

 小早川「教授」が過去に起きた未解決事件をゼミ生と一緒に考察する。時効の撤廃などもあり、時代に相応しいテーマを、女子大生に扱わせるのがミソ。小早川教授がゼミ生5人の特徴を捉え、議論をうまく回していく流れが見事。

 安達蘭子は法律が趣味で独自に勉強もしている。長身でバレーボール愛好会所属。

 加藤梓は「歴女」。ゼミ生たちのまとめ役。

 瀬戸麻由美は世界の「ミステリーハンター」。身体のラインが出やすい服装を好む。

 戸田蓮は控えめな性格。幼い頃病弱だったため、薬に対しての造詣が深い。

 西野楓合気道薙刀に精を出す武道家

 彼女たち5人の性格を、座る位置と来る時間で象徴的に分析する様子は目に浮かぶ。そしてゼミ生たちは事件に真剣に取り組み、いつも時間を延長、講義の回数も増やして問題に取り組んでいく。

 一般的なイメージとは違った真面目な女子大生の彼女たちが、警察もてこずった事件を解決に導く様子は痛快そのもの。そんなうまくいくはずはないと思いつつも、小早川教授の存在が裏付けになっている。

 そして本作品は、私が偏愛するエラリー・クイーンの短編「アメリカ旅商人の冒険」を連想させる。こんなゼミならば安斎刑事ではないけと、メキシコ料理をご馳走して、ゼミ生の皆さんとご相伴したいもの。

 

nmukkun.hatenablog.com

*「アフリカ旅商人の冒険」が集録されている短篇集です。

 

 今野敏作品。警察小説に限定して10シリーズを取り上げました。これだけでも膨大な量ですが、今回取り上げたシリーズ以外にも私が愛する以下のシリーズも合わせると作品の数はざっと135作品でイッキ読み確定。初期は伝奇物、SF物などもあり、それらを加えると優に200は超えます。

 

琉球武術の使い手である整体師が主人公だがタイトルは警察小説の(笑)「渋谷署強行犯」シリーズ。

・拳の世界での頂点を目指す、宮本武蔵のような少年ジャンプのような物語の「孤拳伝」シリーズ。

・本文でも少し触れた、時代と逆行するような、しかし愛される暴力団を描いた「任侠」シリーズ。

・鬼道衆の末裔で「亡者秡い」を描いた陰陽道をテーマとした伝奇物の「鬼龍光一」シリーズ。

・強烈なハードボイルド作品で悪の手から依頼者を暴力と知恵で守る「ボディーガード」シリーズ。

・テレビ局報道部員が特異なキャラでスクープを数々ものにする「スクープですよ」シリーズ。

・警察を辞めた「暴力デカ」が環境利権に取り巻く悪党を懲らしめる「潜入捜査」シリーズ。

・警察小説だが今回挙げなかった「マル暴」シリーズ、「FC」シリーズ。

 

 今野敏の作品を読んでいくと、時代を追ってだんだんと物語が「洗練」されてきたように感じます。刑事像しかり、暴力団しかり、男性像しかり、女性像しかり。昭和から平成、そして令和と書き続けた作品群。その流れで感じる「洗練」は、作家が経験を積み重ねたからだけではなく、日本社会がいろいろな意味で「洗練」されてきたことを映し出しているように思えます。それがいい、悪いは別にして。

 

*続篇も登場しました。