小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

19 ラストライン 堂場 瞬一 (2016~)

【あらすじ】

 異様に記憶力に優れ、また行く先々で事件を呼ぶと言われるベテラン、捜査一課の岩倉剛は、50歳になる誕生日の目前、所轄の南大田署に異動を希望し、受け入れられる。その直後に管内で独居老人が殺される事件が発生する。

 彼は、元交番勤務で同じく異動してきたばかりの後輩女性刑事・伊東彩香と共に事件の捜査に加わる。一方、さらに管内では新聞記者の自殺が発覚。そちらの事件が気になり調べるうちに、25年前の事件につながっていく。

 

【感想】

 私は50歳をはるかに超えたが、当時10年後の定年までは考えていなかった。(残り4年となり視野には入ってきたが)。とは言え捜査一課は生活も不規則で重労働。50歳という年齢を目前にすると、そろそろ事件の少ない所轄に移ることも考える頃合いなのだろう。作者堂場瞬一とほぼ同世代の主人公だが、その役割はまだ終らない、同世代へのエールのようなシリーズとなっている。そして「事件を呼ぶ男」の異名の通り、異動間もなく比較的平穏なはずの南大田署に事件が起こる。

 本作品は「一之瀬拓真シリーズ」とネガとポジの関係に思える。主人公の岩倉は、一之瀬にとっての教育係である藤島。一之瀬シリーズでは藤島の内面は余り見せなかったが、今回は教育係の視点で、若者をどのように考えて教育していくかを一人称で内面も含めて描かれている。そして本作品の一之瀬役が、岩倉と同じ日に異動となり刑事になった伊東彩夏(あやか)。初めての死体検分から、聞き込み、取り調べと先入観を持たせずにやらせてみて、あとから指導していく。

 ベテランの立場で「捜査技術の伝承」を気にかけ、後輩に伝授する気持ちを持って。相棒の成長は自分が楽をするため、というよりも警察のため、と大きな視点を持って指導しているのが、本作品でも一之瀬拓真シリーズでもうかがえる。その代わり「無駄飯食らい」と思える刑事への当たりは厳しい。

 ベテランを主人公とする利点は、人脈の広さ。特に岩倉は長年捜査一課で働いていたため顔は広く、「堂場劇団」劇団員(?)であるアナザーフェイスの大友や失踪係の高城、そして検事の城戸南の名前も自然に出てくる。いろいろな伝手を使って情報を集め、精査して捜査を進めていく。現場ではできない補完作業がベテランの役目の一つ。

*せっかく育て上げた「ヒロイン」伊東彩香の後釜が、「クセの強い」人物。

 

 そしてもう1つ、主人公の岩倉には「異様に記憶力が強い」という特徴を付けた。そして趣味が過去の事件を振り返ること。これにより岩倉が警察に奉職する前後に起きた、バブルの発生から崩壊までの狂乱の時代に起きた事件も振り返ることができる。今まで現在進行形が中心だった事件に時間軸を与えることができる。そしてその特徴をシリーズ第1作から描いてみせた。

 事件は老人の殺人事件から始まり、新聞記者の自殺が同時期に起きて、自殺事件が気になって追いかけていくうちに最初の殺人事件との関連が浮かび上がっていく。そして事件は25年前に起きた大事件へと流れつく。2つの事件が同じ管轄で起きた偶然、そして岩倉が捜査に当たった偶然で真相が暴かれることになる。それにしてもそんな優秀で、記憶力が異様に強い刑事がなぜ警部補のままなのか・・・

 教育した伊東彩香は第2作「割れた誇り」では約1年間の教育期間を経て機動捜査隊に送り出し、自分の役割を果たす。代わりに配属されたのが一癖も二癖もある川嶋刑事。巨大組織で長年勤務すると、いろいろな人物と出会うことになる。そして第4作「骨を追え」では、立川中央署に異動となり、10年前に失踪した女子高生の白骨死体を巡る事件で、犯罪被害者支援課の村野秋生と共演する。

 それにしても、パソコンと整理整頓が苦手な、警部補のまま出世に意欲を見せない刑事像は、そのまま今野敏の「STシリーズ」の登場人物にも重なる。

 

ラストラインシリーズ

 ラストライン(2018年) 独居老人が殺される事件、さらに管内では新聞記者の自殺が発覚する。

 割れた誇り(2019年) 女子大生殺人事件で逮捕された男が無罪となり、近所は不穏な雰囲気に。

 迷路の始まり(2020年) 殺人事件の被害男性が、同時期に別の場所で殺された女と接点があった。

 骨を追え(2021年) 10振りに発見された少女の白骨死体。犯罪被害者支援課と真相に迫る。

 悪の包囲(2022年) サイバー犯罪対策課の福沢が殺害された。岩倉は因縁から容疑者扱いに。

 

*過去と現在と結ぶ事件は主人公の独壇場。