小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

11 孤狼(刑事鳴沢了シリーズ) 堂場 瞬一 (2001~2008)

【あらすじ】

 一人の刑事が死に、一人が失踪した。理事官に呼ばれた鳴沢了は、新たな相棒とともに消えた刑事の捜索を命じられる。うまくいけば一課に移動することも考えると甘い誘いも添えて。

 刑事として一課で活躍したい鳴沢が相棒と一緒に調べを進めると、刑事たちが手を引くように忠告したり、言葉を濁したり、面と向かって脅したりと思議な行動が続き、その上恋人の身辺まで危険が迫って来る。そんな中、謎の組織の存在が浮かび上がる。

 

【感想】

 堂場瞬一の警察小説のスタートとなる「鳴沢了」シリーズ。シリーズ後半の「暴れん坊刑事」の印象が強いせいか、再読すると捜査一課以外での物語が意外と長いのに、今更ながら驚く。主人公が新潟県警から警視庁に舞台を移すのは作者当初からの構想らしいが、所属分署も課も移ることまで想定していたかと思うと、改めて作者の意図に舌を巻く。

 本作品は第4作。今までは一匹狼でストイックな面を前面に出しつつも、一方で空回りしていた点もあった。しかし今回は今(こん)敬一郎という、実家がお寺で大食漢(この強烈なキャラは、さすがに当初からの構想にはなかったと思うが)が相棒となり、そこに第2作で同僚だった、今は私立探偵の小野寺冴が加わる。以前の相棒だった今(こん)と冴は、過去の因縁もあるようで丁々発止して、そこに鳴沢が絡まり、会話が本作品からうまく回り始める。

 また第2作では同じ「孤狼」の体臭を嗅ぎ取り、時に男女の仲になった小野寺冴との再会。前作で恋人になり本作品では狙われた内藤優美の警護を、警察を退職した冴に頼む。その時のやや後ろめたい気持ちの男と、そんな気持ちを軽くいなしつつも強がっている女の微妙な会話がまた興味深い

 3人で捜査を進めると、事件の核心は警察内部の組織の対立へと移っていく。そこに父親の情報もあり、鳴沢が新潟県警を辞め、冴が警察を辞めるきっかけにもなった事件とも深くかかわりがあることを知る。過去とのつながりもあるが、正義感が強く、抵抗があればあるほど乗り越えようとする性格の持ち主は、相棒である2人の「孤狼」を差し置いて、本物の「孤狼」を覚醒する。「小さなボヤも大火事にしてしまう」刑事でしか生きられない鳴沢了が完成した、意味ある作品になっている。

*全てはここから始まりました。

 

 その後の作品は一直線。特に第7作「血烙」は鳴沢がニューヨーク市警の研修に行く話。あらすじを見て一度は冷めたが、読むとアメリカでも鳴沢が生き生きと躍動して、想定外におもしろい。

 最終作「久遠」はこのシリーズの集大成。鳴海だけでなく、過去に登場した人物がそれぞれ新たな道を歩むことになる。そして「鳴沢了外伝」で、熱い男が主人公だったシリーズの余熱を、周囲の登場人物と一緒に楽しむことができる。

 また「刑事バカ」のようで、私生活には非常にストイック。服装や車、食事にこだわりトレーニングも欠かさない(愛読書が透けて見えそうだww)、そのディテールの描写も堂場作品全体の魅力。その割に女性に対してはハードルが低いのはご愛敬で、皆さんのツッコミどころになっている。

 それにしてもこのシリーズの主人公鳴沢了と小野寺冴。私はどうしても「シティーハンター」の冴羽獠と野上冴子を連想してしまう・・・

刑事・鳴沢了シリーズ

 雪虫(2001年) 新潟県警魚沼署の刑事鳴海了が、祖父と父が関与した事件に挑む。

 破弾(2003年) 新潟県警を辞職し警視庁に就職、多摩署で資料室と格闘するが・・・・

 熱欲(2003年) 青山署では生活安全課に配属され、詐欺事件の捜査に関わる。

 孤狼(2005年) 念願の刑事課に戻った了は、失踪した刑事を捜索する極秘捜査を命じられる。

 帰郷(2006年) 確執の続いていた父が亡くなり、唯一の未解決事件の真相を追うことになる。

 讐雨(2006年) 了らの乗る車の目の前で、1台の車が爆破する。誘拐事件との関連は・・・・

 血烙(2007年) NY市警で研修中の了だが、勇樹がバスジャックに巻き込まれた。

 被匿(2007年) 代議士が不審死し事故と断じたが、議員は収賄で事情聴取される予定だった。

 疑装(2008年) 保護された、喋らない少年の行方を了が追うと、新たな事件に巻き込まれる。

 久遠(2008年) 了が前夜会っていた情報屋の岩隈が殺害され、了にその容疑をかけられる。