小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

7 TOKAGE 特殊遊撃捜査隊 今野 敏 (2009~)

【あらすじ】

 大手都市銀行の行員3人がさらわれる誘拐事件が発生した。身代金要求額は何と20億円。常に沈着冷静で信頼感の厚い高部係長が率いる、警視庁捜査一課特殊犯係に犯人追跡の指令がかかる。配属されて間もない上野数馬は、覆面捜査専門のバイク部隊「TOKAGE」のメンバーとして、年下だがキャリアは上の白石良子らと協力して、東京・大阪間を駆け巡りながら、初めての誘拐事件の解決に挑む。

 

【感想】

 今回はバイクによる特殊部隊を題材にしたストーリー。作者の守備範囲の広さには驚かされるが、「安積班シリーズ」で白バイの速水警部補を題材とした物語も数多く描いているためか、バイクへの勉強の蓄積もあったのだろう。「躍動するバイク」を描く躍動感溢れる描写がシリーズ全体に挿入され、読み手を物語に入り込ませるのは流石

 そして上野隊員の成長を描くことがシリーズの軸となっている。

 最初の本作品で上野隊員はちょっとしたミスもあり萎縮してしまうが、その中でも自分の役割を果たして少しずつ経験を積んでいく姿が描かれている。事件はメガバンクの光と影を描く、突き詰めるとステレオタイプな描写で、ネタバレに直結して解説しづらい内容となっている。真相は、誘拐された銀行員3人が無事解放されてから徐々に見えて来る仕掛けとなっている。そして本作品の主役は、新人の上野と、年下だがキャリアが上で冷徹な白バイ乗りの白石涼子ダブルキャストという感じもある。

 第2作「天網」の事件はバスジャック。深夜の高速道路を走行中のバスが次々とジャックされる。前代未聞の犯行に大規模な追跡作戦が始まるが、ネットには警察も知らない情報が書き込まれ、事件が「実況」されている。TOKAGEは、犯人を刺激しないようにただただ事件に遭遇したバスを追いかけていく。

 上野隊員はこの事件でチームのリーダーを任される。しかしチームのメンバーは2人とも年上でキャリアも充分であり、上野はまた萎縮する。自分がないがしろにされているようで焦るが、次第に心が通じ合い、メンバーとの信頼関係が生まれて来る。

 

 第3作「連写」は国道246号線沿いに集中して発生するコンビニ強盗が中心となっている。捜査本部が置かれた世田谷署に上野数馬と白石涼子が急行し、また新設された警視庁捜査支援分析センターも動員されるが、解決の糸口が見えず、TOKAGEが地味な捜査に終始する。そこで上野はバイクで見たものの記憶を「取り出す」ことができるフォトグラフィックメモリーの能力を活かす。これは視覚でとらえたものを画像として脳に刷り込んでいく記憶法と言われている。訓練で身につけたというが、これはアスペルガー症候群の一種とも言え、得意分野の能力が常人と歴然とした差があり、努力だけではない「才能」が必要なレベル。これに対し涼子は、「自分の能力は自覚すべき。そして、それをさらに伸ばすの」と上野を励ます。

 事件の突破口を見つけたのは新聞記者の湯浅と木島チーム。そのため本シリーズでは主役が絞れない印象もある。高部係長が主役でも構わないし、新聞記者コンビでも構わない。でもできれば第1作で主役級だった白石涼子に第2作、3作も主役の座で進めてもらいたかった気持ちもある。今野作品では女性の主人公はほとんどない。女性の成長を描く物語を、「バイク」という特殊分野で描くのもまた興味深いストーリーで、ぜひとも読んでみたい気がするのだが・・・

 とは言えそれはないものねだり。第3作で上野の特異な能力を見せたので、次はこの能力をもっと活かして、上野の成長も見られる捜査を描いてもらいたい。そこに白石涼子もうまくからめて。