小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

6 逆風の街(横浜みなとみらい署シリーズ) 今野 敏 (2003~)

【あらすじ】

 神奈川県警みなとみらい署。暴力犯係係長の諸橋は親をヤクザに殺され、それ以降ヤクザを目の敵としている。その過激な「捜査」は、「ハマの用心棒」と呼ばれ、暴力団には脅威の存在となっている。

 闇金からの取り立てに怯える家族に対して、民事不介入を理由に何もしてくれない警察。そこに暴力犯係係長の諸橋が登場し、ラテン系の同僚城島と丁々発止の大暴れをする。そんな中地元の組織に潜入捜査中の警察官が殺された。「ヤクザよりもヤクザらしい」諸橋班が横浜を舞台に暴れまくる。

 

【感想】

 警察小説を量産するまでの今野敏作品は、自ら空手を愛好するためか、武道家を主人公としたやや現実離れした作品が多く、そこに出現する暴力団や半グレ達はほとんど「ショッカー」扱い (笑)。大量に湧いて出て自分でハードルを上げては、主人公に叩かれる。本作品でも主人公の諸橋たちに完膚なきままにやられる役割をシリーズを通して与えられる。

 「ハマの用心棒」(本人はその呼び名を嫌う)諸橋夏生警部補が係長で、その相棒で陽気なラテン系の城島勇一警部補が係長補佐。この二人をメインに、浜崎吾郎部長刑事、倉持忠部長刑事、八雲立夫係員、日下部亮係員のメンバーで暴力団がらみの事件を担当する所謂「マル暴」と呼ばれる係の活躍を描く。

 その「捜査」は一見ヤクザ顔負け。下手に法律と権力を背にしているからかえって始末が悪いくらい。そのため監察官がその「捜査」を問題視して始終見張りにつくのがお決まりのパターン。但し捜査の手順は意外ときめ細かく真面目な点も多い。聞き込みも時間と場所を選び、食事の場所も仕事を考えて極めて効率的な判断をとる。この辺のディテールが今野作品のよさ。そして諸橋と城島が全編で繰り広げる会話が漫才のように軽妙なため、ともすれば殺伐なストーリーの中で読み手の方の力を抜いてくれる

 本作品は暴力団の取立から端を発し、潜入調査員の問題に発展する。潜入調査を表沙汰にしたくない上層部と、筋を曲げない諸橋。結局警察も暴力団と同じで「上意下達」が絶対の組織。諸橋は双方で筋を通していき、痛快活劇としてストーリーは進んでいく。

 

 ところでこのシリーズには全編、常磐町の神風会の神野というヤクザが諸橋の情報源として登場する。昔気質のヤクザで、義理と筋に重んじる姿勢。今時の暴力団は小世帯では生き抜くことは大変だが、神野個人の情報収集力が他の暴力団と一線を画しているため、存在感は他を圧している。そのためこの人物にはさすがの諸橋も一目を置いている。

 そして第五作「スクエア」では、神奈川県警のトップである佐藤本部長が神野に興味を持ち意気投合する場面が描かれている。名前と人物設定から、「隠蔽捜査」で主人公の竜崎が神奈川県警の刑事部長に就任した時の上司である本部長なのは明らか。人を色眼鏡で見ず、その本質から付き合うべきかどうかを判断する性格のようで、これは作者今野敏の姿勢にも通じている。佐藤本部長は神野と同じく、原理原則主義者である竜崎にも期待をかけている。神野と竜崎、いずれ絡むことがあるか(ないだろうなあ)。

 1991年に暴対法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)が施行された。暴力団が全て投網をかけるようにその対象となった結果、「反社会的勢力」は経済団体と姿を変えて活動を継続し、そして経済活動は裏で会社と暴力団の癒着となって広がっていく。また社会ではバブル経済とその崩壊を経て、やはり経済中心の世の中に変貌していく中、昔気質のヤクザは「絶滅危惧種」となっていく。武道家でもある作者今野敏は、義理と筋を重んじる組織の暴力団に対して、デビュー当時に比べて見る目が変わってきたのではないだろうか。

 本作品を開始した翌年2004年から、(時代の流れに反して)義理と筋を重んじる暴力団が、普通の市民よりもまっとうに見える姿をコミカルに描いた「任侠」シリーズがスタートする。

 

横浜みなとみらい署シリーズ

 逆風の街  (2003)

 禁 断   (2010)

 防波堤   (2011)

 臥 龍   (2016)

 スクエア  (2019)

 大 義   (2021)

 

任侠シリーズ

 任侠書房 (「とせい」改題) (2004)

 任侠学園 (2007)

 任侠病院 (2011)

 任侠浴場 (2018)

 任侠シネマ(2020)