小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

6 十字屋敷のピエロ (1989)

【あらすじ】

 竹宮産業の社長一家が暮らす十字屋敷に、持ち主に不幸をもたらすという悲劇のピエロがやって来る。

 その日の夜、突然聡明で皆から慕われていた女社長の頼子が飛び降り自殺をする所を、ピエロ人形だけが見ていた。頼子の49日、姪の竹宮水穂は伯母の死の真相を探ろうと十字屋敷を訪れる。そこには頼子の夫で、婿養子なのに女癖が悪い、社長を引き継いだパズル狂の宗彦、宗彦と頼子の娘で、「車いすの美女」下宿人で大学院生の青江、通いで家族の髪を手入れするために出入りする美容師の永島など、親戚たちや会社の関係者などが集まって来る。

 そんな時、武宮宗彦が不倫相手の秘書理恵子と共に刺殺されている姿が発見される。宗彦を殺した犯人は、頼子の従兄で竹宮産業の取締役・松崎良則だった。松崎は竹宮産業で収賄の罪を犯しており、その事実を知られた宗彦を殺害したというのだ。しかし、松崎は三田理恵子の殺害は否定していた。三田理恵子を殺した犯人は誰か、それとも愛する宗彦の死を見て自ら命を絶ったのか。謎はどんどん深まっていく。

 

【感想】

 東野圭吾が当時次々と登場してミステリー界を席巻した新本格派の作家たちを見て、自分の立ち位置を見つめ直して作り上げた作品で、自身の分岐点となった重要な作品と語っている。「ハウダニット」つまりどう行ったのかと言うトリックに固執せず、それまでも意識していた動機や人物設定、事件背景などストーリーに重きを置くように変化したことと、私は勝手に思う。ちなみに本作品も新本格派の名作、綾辻行人の「十字館の殺人」とタイトルが被ってしまい、発刊を少々ずらしたという悲しい運命を持っている。

 そして本作品の内容は、本格的な推理小説でありながら、「本格推理小説」をディスっているところが可笑しい。パズル好きの登場人物を設定し、パズルのような屋敷があるのは、島田荘司の「斜め屋敷の犯罪」そのものだが、その上で「パズルは嫌い」と登場人物に言わせたり、軽薄な探偵役にいろいろな推理を話させては意味がなかったり、刑事が登場人物を集めて「犯人はあなただ」と指摘するも間違えていたりと、本格推理小説を少しずつ茶化している流れは、「関西人」東野圭吾の本領か。本の表紙に隠されている「ネタ」も含めて(これはもう触れても大丈夫でしょう(笑))。

  f:id:nmukkun:20211201184353j:plain *こちらが一部ネタバレ?と騒がれた講談社文庫の表紙です。

 

 そして本作品に不思議な存在感を与えているピエロの存在。物語の途中でいくつかピエロの視点からの挿話が挟まれるのは、廻り回って「新本格派」のテイストになっている。ピエロの不気味な由来を示したあと、ピエロの視点から事件の進行が語られる。それは「神の視点」にもなって、物語にアクセントを加えている。

 事件は探偵役でもあった青江も殺されてしまう。そして武宮水穂の観察力と推理で事件の真相が判明する。2転3転する推理と真相。本格推理小説を「ずらす」テイストを加えながらも、本格推理の軸を失わない展開は見事。ちょっとクリスティーの作風を思い出した。

 読み直すと、トリック重視の「新本格派」テイストからは脱却したが、ピエロの存在で完全な「本格推理小説」からもはみ出している感じを受ける。それまでの作風と比べて実験的な要素もあり、サイエンスやファンタジーなど、今後展開していく新しい分野への「分岐点」になったとも思える。

 それだけに、最後のピエロの一言は強烈だった。これは海外ミステリーの名作、「試行錯誤」を思い出された。どう展開すれば読者が驚くかを念入りに考える、「読者ファースト」の姿勢はこの頃から健在である。

 

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