小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

16 双頭の悪魔  有栖川 有栖 (1992)

【あらすじ】

 前作「孤島パズル」事件での傷心により、家出をして高知県の山奥にある木更村に滞在している有馬麻里亜(マリア)を連れて帰って欲しいと、父親から依頼された英都大学推理小説研究会のメンバーたちは木更村に向かう。しかし村の住人との間で誤解が生じマリアとの面会は拒絶されたため、村への潜入を決行する。有栖川有栖(アリス)たちは潜入に失敗し隣の夏森村に追い返されるが、潜入に成功した江神二郎はマリアとの再会を果たし、木更村の住人たちとの間とも誤解が解け和解する。

 ところが翌朝アリスたちが木更村に向かうと、鉄砲水により木更村と夏森村が分断され、更に夏森村も土砂崩れにより外界との交通が遮断されてしまう。電話も繋がらずお互いの状況を把握できない中、木更村と夏森村でそれぞれ殺人事件が発生する。こうして木更村では江神とマリアが、夏森村ではアリスたちが、それぞれ事件の真相を解明しようと推理を試みる。

 

【感想】

 確か栄えある「喜国雅彦探偵小説大賞」受賞作品との記憶がある(何故か印象が強い・・・)。

 有栖川有栖の第1作「月光ゲーム」、第2作「孤島パズル」に続いての「学生アリス・江神二郎シリーズ」。学生気分に浸れ、かつ純粋な推理の論理が楽しめるシリーズだが、第3作となる本作品は舞台が濁流に呑まれ、「二重のクローズドサークル」と化した2つの村。いかにも怪しげな鍾乳洞の存在、そして個性豊かな芸術家を中心とする村民との交流も深くなり、前作までとは比較にならないほど作品のスケールは大きくなり、そして深みは増している。

有栖川有栖のデビュー作は「Yの悲劇」へのオマージュと、クイーンが得意とするダイイング・メッセージ物でした。

 

 本作品のポイントは、舞台を2つの村、「マリア編」と「アリス編」に分けたこと。木更村の「マリア」は、人格者で名探偵の江神をつけ、マリアの相談に乗りながらも事件を見事な推理で解明していく。対して「アリス」は、本来名探偵江神の引き立て役にすぎない語り手のアリスや推理研のメンバーで、ガヤガヤと会話を進めていく。まるで推理研の会合のようで(そのものだがww)こちらは学生気分が横溢して、本シリーズに含まれる2つのテイストを十分に味わえる。

 事件そのものも、この複雑な設定が強く生かされている。それぞれの村で起きた殺人事件。それぞれが、クイーンを信奉する作者が綿密に仕組んだ見事な手掛り(又は「あるはずのものがない」手掛り)に基づいた推理が披露される。そしてその自信からか、本作品は第1の事件、第2の事件、そして全体像と3度に渡る「読者への挑戦」が盛り込まれている。

 後から考えると、この「読者への挑戦」が3つあることから全体像も推測できる可能性もあるが、初読では到底ムリ。事件の全体像も、クイーンの論理が貫かれている。そして「マリア」と「アリス」が交互に描かれ、時にクロスしながらも物語は進んでいく構成も見事で、「マリア」と「アリス」は本作品のために名付けたと思うほど溶け込んでいる。

 マリアの心の中の葛藤と、アリス達の友情と社会との交流。自由と思われる学生の立場に潜む、ややほろ苦い思いも乗せた物語。「学生アリス・江神二郎シリーズ」はこの後15年にわたり中断して、その間「作家アリス・火村英生シリーズ」に精力を注入することになる。本作品を書き上げたことによって、作家有栖川有栖も青春の時代に区切りをつけて、職業作家としての「自信と覚悟」を生み出したように思える

 そしてそれから、新本格派を中心としたミステリーの「伝道師」として、盟友綾辻行人とともに、活躍は現在まで続いている。

 

*学生3部作の第2作はクローズドサークル物で、本作品の主人公の1人「マリア」が登場して活躍します。