小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

11 ある閉ざされた雪の山荘で (1992)

【あらすじ】

 久我和幸は1年前に元村由梨江の舞台を見た時から心が奪われた。由梨江が所属する劇団のオーディションが開催されることを知って応募し、合格者の1人に選ばれる。合格者は乗鞍高原の山荘に集まり、3泊4日の舞台稽古に参加することになった。山荘に集まった初日、憧れの由梨江と打ち解けることができたが、舞台で存在感を放っていた麻倉正美が居ないことを不思議に思う。

 翌日、劇団員の女優がいなくなる。殺害された設定で劇を続けるようメモが残されていた。翌日は由梨江がいなくなり、花瓶で殺害された設定で劇を進めるよう指示をするメモが置かれていた。但しその花瓶はメモとは異なる場所に置かれていて、そして血痕が付着していた。折からの豪雪で外部から遮断された山荘で、翌日には次の「被害者」が現れる。

 

【感想】

 「白馬山荘」「仮面山荘」に続く「山荘3部作」。題名からして本格推理小説の王道をいくゴシック的な雰囲気を前面に出して、挑発的とさえ見える。東野圭吾も「山荘」シリーズは本格にこだわる気持ちを述べている。但しそう見せかけて肩透かしを食らわすのも「東野流」、この後に発表した短編では、東野流を「嫌と言うほど」味わうことになる(笑)ので注意が必要。

 本作品は劇団が舞台。その設定はバレエ団を舞台にした「眠りの森」の知識を応用しているように見える。オーナーがいて、演出家が居て、主演女優、実力派俳優、新進気鋭の若手俳優、そして脇役たち。劇団内でのヒエラルヒーが厳然と存在して、その中で少しでも上を目指そうとする様々な思惑が交錯する社会。それが時には犯罪の動機となり、時には誤誘導(ミスディレクション)の情報になる。

 主人公はそんな劇団という組織に、主演女優に心を奪われて入団した新人俳優。新人の視線から劇団内の人間関係やヒエラルヒーを説明する設定で物語は進む。登場人物の一人ひとりに、人物設定とともに劇団の立場で色付けしていく。そして本格ミステリーの「王道」、1人ひとりと舞台から消えていく。その「ミッシングリンク」は何かを、主人公と捜すことになる。

 

 そして本作品が「山荘3部作」の前2作と異なるのは、「十字屋敷のピエロ」で登場したピエロの役割を、別の存在で巧みに使ったところ。「ピエロ」が観察者に過ぎないが、本作品ではピエロよりも事件に介入して、ちょっとした驚きを与えてくれる。その構成も考え抜かれた佳作。

 新本格派の潮流に対抗して、ハウダニット(トリック)にこだわって上梓された「山荘3部作」。「白馬山荘」は密室と暗号を取り入れているが、トリックが複数にいれ混じっていて、例えば「魔球」のようにもう少し交通整理が必要な気がしてならない。本作品の前に上梓した「仮面山荘」は読者を驚かせること「のみ」に重きを置いた印象を受ける。そして本作品は前作を練り直して新たなサプライズを描いていて、ミステリーとしては数段素晴らしいが、「11文字の殺人」「宿命」「運命」などで描いた「読者の胸が締め付けられるような動機や事情」は薄れている(上から目線でご免なさい)。

 本作品に至る時点で、東野作品はデビュー当時からは違う境地に達している。元々トリックも絡めた作品を著わしてきた作者は、このような作品もできるのだよ、と証明したかったのかもしれない。しかし当時のミステリー界で新本格派が「跋扈(ばっこ)」して作品を上梓し続けていることに対抗したような「山荘3部作」は、本作品で役割を終えることになる