小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

12 十角館の殺人 綾辻 行人 (1987)

【あらすじ】

 十字形の奇妙な館が建つ孤島・角島を大学ミステリー研究会の7人が訪れた。彼らはそれぞれエラリイ・アガサ・カー・オルツイ・ヴァン・ポウ・ルルウといった有名な推理作家の名前をニックネームとして呼び合っていた。館を建てた建築家・中村青司は、半年前に炎上した十角館の本館部分に当たる青屋敷で焼死していた。そんな不吉な館で、学生達は1人1人予告通りに殺害されていく。

 一方本土では、元々身体が弱かった中村青司の娘がミステリー研究会の飲み会の席で亡くなったことを「ミステリー研究会のメンバーが殺害した」として脅迫を受けていることが判明し、本土に残っていたメンバーの江南(こなん)と守須(もりす)が、事件を解明しようと捜査を行う。

 

【感想】

 「新本格派」の誕生を告げる記念碑的作品だが、最初に読み進めた時は、いかにもミステリー研究会出身の人が書いた作品としか思えない印象だった。メンバーの名前を海外のミステリー作家に置き換えて、無機質な登場人物を記号的に描く手法。そして「超」有名作を利用した設定。すなわち、読み手に「安易な作り物ですよ」と白状しているとしか思えない作品。

 それもこれも全て読み手に対してミスリードさせるための「罠」と分かった時の悔しさといったら! 「ミステリーずれ」した読者の心理も読み切っての作品としか思えない。敗走を装いながら敵を罠におびき寄せ、伏兵が一挙にせん滅する、島津家伝来の「釣り野伏せ」の戦術。いや、脱帽です。

 本作品の設定は「そして誰もいなくなった」に近く、また真相を綴った手記を瓶に詰めて海に流すところは、まさにオマージュ。但し私は読んでいて「殺しの双曲線」に近いと思った(後に、西村京太郎と綾辻行人の対談でも、共通点を述べていた)。同作品の感想でも述べたが、「そして誰もいなくなった」が島の中で全てが完結しているのに対し、本作品は「島」と「本土」にパートが分かれているため、息が詰まるような閉塞感からは少しは救われている。そして連続殺人の舞台(島、もしくは雪山山荘)とは別のパート(本土もしくは東京)で事件の重要なヒントが発見される。但し本作品はそこに「1ひねり」加えている。

 

 *本作品と共通する点が多い名作。

nmukkun.hatenablog.com

 

 そして本作品は、建築家中村青司が設計した「館」にまつわるシリーズの、そして探偵役の島田潔が活躍するシリーズのスタートとなり、全てが「本格推理」の期待を裏切らないロジックに満ちている。

 

  回る水車が全編通して印象的。有栖川有栖の「新旧」の解説も味わい深い 「水車館の殺人」。

  館に集まった推理作家が殺人事件に巻き込まれる(折原一テイストの) 「迷路館の殺人」。

  館シリーズでは異色作。評価が分かれるがそれだけインパクトのある 「人形館の殺人」。

  館シリーズの最高傑作と呼ばれる、トリックと雰囲気が完成された 「時計館の殺人」。

  師匠・島田荘司の某作品との因縁を感じるトリックが炸裂する 「黒猫館の殺人」。

  超大作。不気味な雰囲気でカーの名作を連想させる怪奇作品 「暗黒館の殺人」。

  子供用に作られたが、大人も読ませる密室トリックの 「びっくり館の殺人」。

  大雪の山荘と全員が仮面を被った登場人物という設定の 「奇面館の殺人」。

 

 読み手によって向き不向き、好き嫌いはあると思うが、新本格派の存在を決定づけたシリーズという意味でも、日本ミステリー界に重要位置を占める。また作者は物語にとどまらず、様々な媒体を使って、様々な手法でミステリーの啓蒙にも尽力した。

 本作品を語る上で欠かせない「あの一言」。それは師匠・島田荘司の「占星術殺人事件」と同じ衝撃を、ミステリー界に与えた

 

*まさかこの作品が、今になってマンガ化されるとは・・・・