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【あらすじ】
コーデリア・グレイは22歳。秘書として雇われた探偵事務所で、元警官の所長バーニイから探偵の素質を見出されて共同経営者となった矢先、その所長のバーニイが癌を苦に自殺してしまった。1人残されたコーデリアは、誰からも「探偵は女には向かない」と言われながらも、バーニイの遺志を継ぎ、探偵の仕事を続けることを決意する。
バーニイの葬儀の日、ケンブリッジ大学の科学者が依頼人として探偵事務所に現れた。息子が突然大学を辞め、庭師として働いていたのだが、その後自殺してしまった理由を調べてほしいという依頼だった。ケンブリッジに赴いたコーデリアは、やがて幾つもの不可解な事実を突き止め、表面からは見えなかった事件の真相に近づいていく。
【感想】
本作品を読む前は、きっと日本のトレンディドラマ風の内容だろう(この表現も古いww)と思い込み、しばらく見向きをしなかったのだが、読んで印象が変わった。
父親が地下活動家で、子供の頃から修道院に預けられる。頭脳優秀だったのでケンブリッジ大学への進学を目指していたが父親の都合で引き戻されて、世界を放浪しながら身の回りの世話をすることになる。そんな複雑な設定が「職業としての探偵」の素質を知らず知らずのうちに磨き上げていたのだろう。
コーデリアが1人で受けた初めての仕事。「因縁の」ケンブリッジ界隈で、いろいろと聞き込みをして捜査を進めるうちに、徐々に真相に近づいていく。それは当初の想定ではありえない複雑な構図。そして真相に辿り着くために、コーデリアはわずかな期間に教わったバーニイの言葉を思い出しながら進んでいく。未熟ながらも実直に、そしてひたむきに、真実に向かって1歩1歩。
ともすればはったりと度胸、そしてどこか偏った性格を持った人物が従事するイメージが強い探偵という「職業」を、先入観を持たず自分の経験とバーニイの教えを灯(ともしび)として、コーデリアは健気に前を向いて歩き続ける。このため従来の探偵像から見て「探偵には向かない」と思わせるコーデリアの人物設定がどうしても必要だった。
事件は思わぬ展開を迎え真相が判明する。コーデリアは彼女なりの気持ちで事件を結論づける。ところが事件の結末に疑問を持った警察に呼ばれ、ダルグリッシュ警視から尋問を受けることになる。ダルグリッシュ警視はバーニイの警察での師匠にあたる人物で、何度もコーデリア相手に捜査の「いろは」を教えてもらったと聞かされた、そして警察を去る要因のひとつとなった人物。尋問中は厳しく、寝不足の中で何度も不安に襲われながらも、真相は頑なに話さないコーデリア。それが途中で「新たな事実」が知らされ、コーデリアの尋問は終了する。そこでこれまでコーデリアが1人で抱えてきた、心の中で大切にしまっていたものが「決壊」する。
ここの場面は本当に素晴らしい(私は不覚にも・・・・)。コーデリアの人物設定、会話、思考と行動。そして本作品の冒頭で自殺してしまったが、彼女に探偵の資質を見抜き共同経営者に抜擢してくれた、初めての困難極まりない捜査を心の底で最後まで支えてくれたバーニイに対する思い。それらの全てがこの場面に集約されている。
警察から解放され、コーデリアが探偵事務所に戻る。そこにはコーデリアを待つ依頼人がいる。それを見てコーデリアは探偵を続ける決心を固める。
読者なのに「これからも頑張ってね」とコーデリアに一言声をかけたくなる。そんな感情移入をさせる作品。