小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

8 悪魔の選択  フレデリック・フォーサイス(1972)

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【あらすじ】

 イギリス政府内の防諜機関(ファーム)に従事していたウクライナ系イギリス人のアダム・マンローは、「ソビエト」に潜入しての情報収集を命じられる。アメリカの偵察衛星ソビエトの凶作を予測し、その確認を求められたためだ。過去の防諜活動で知り合ったワレンチーナと再会し、その情報からソビエトでの小麦の凶作は事実と判明。アメリカはその情報を利用して、ソビエトと核軍縮条約と締結することに成功する。

 その頃ソビエトでは和平派と軍拡派で政治抗争が繰り広げられていた。一時はルージン書記長の和平派が優勢だったが、「ウクライナの独立」を目指す勢力がソビエトに打撃を与えるため、和平派の一人であるKGB議長を暗殺することに成功する。暗殺の実行犯は捕まり「西ドイツ」で拘留されていたが、暗殺の首謀者はタンカーを乗っ取り、実行犯の釈放を要求する。アメリカは最終的に首謀者の要求を呑む判断に傾いたが、その時ソビエトから、実行犯が釈放されたら、先に締結された核軍縮条約は破棄すると、一方的に通告してきた。事情がわからないが、条約破棄は譲れないアメリカ。事情が知られると軍拡派の勢力が増し、政権の瓦解につながるソビエトアメリカは先の小麦凶作などの重要情報をもたらしたマンローに再度情報収集を依頼する。

 世界の破滅をもたらすカウントダウンが始まる。(「 」は、現在の世界と異なる状況を意味する)

 

【感想】

 フォーサイスの作品ならば「ジャッカルの日」を出すのがランキングで「収まりがいい」と頭ではわかっているが、初読のインパクトがいまだに強いため本作品を挙げた。読み進めると止まらなくなり、予定地に降りずに大幅に電車を乗り越した経験を思い出す(電車乗り越しはこれが2冊目)。但しあらすじを読んでわかる通り本作品の賞味期限は切れているので、ベスト20の位置にようやく滑り込ませたもの。

 あらすじもだいぶ詰めたつもりだが、それでも長々となってしまった。それだけ内容が複雑。近未来(作品の舞台は1982年)の東西冷戦下の世界情勢、特にアメリカ・ソビエト・イギリス・ウクライナ・西ドイツそしてイスラエルと、その広大な世界を緻密に描くディテールが余りに見事。このあらすじのあと、主人公のマンローがイギリス・アメリカ・ソビエトと「超音速」を駆使して各首脳と直談判して(!)話をまとめるが、その過程で本の題名である「悪魔の選択」が活きて来る。

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 私が成長した頃は「東西冷戦」は日常のことで、時に世界全体を重く覆っていたもの。例えば平成以降に生れた人たちは、「冷戦」と聞いてどう思うのだろうか。当時は地球を何度も崩壊することができる核軍備を保有し、「世界終末時計」が動いた・動かないで大騒ぎをしていたもの。ベルリンの壁が崩壊しソビエトという国家が消滅して、「東西冷戦」は完全に過去のものになった。年表を見た時、20世紀の最初と最後に「ソビエト」という国家は存在しないことを改めて知ると、その時代を経験したものからすると驚きを禁じ得ない。

 フォーサイスでは先にあげた「ジャッカルの日」以外にも、スケールの大きさとディテールの緻密さを追求した、当時の世界情勢をテーマとした大作が多くある。その中でも「イコン」は、ソビエトの崩壊からロシア建国にかけての「暗黒史」ともいえる内容で、私の中では「悪魔の選択」と双璧をなす。また現在のロシアから想像して読んでも楽しめる。

 世界情勢は変わったが、世界の動きは過去から続いている。ロシア建国後長期に渡って権力の座に君臨するのは、KGB出身のプーチンウクライナは独立したが、ウクライナ情勢は現在ヨーロッパとロシアの間での火種となっている。また争いは国家間だけでなく、宗教対立、人種対立などに飛び火している。そして世界終末時計は2020年になって、異常気象や軍縮への不信感などから、終末まで100秒と、戦後最も針が進むことになる。

 本作品の賞味期限が「本当に」切れることを願う

 

 *やはりこちらも、時代を超えた名作なのは間違いない。

 

 

2022.3.1追記

 やはり本作品の賞味期限はまだ切れていなかったようです。フォーサイスのもう1つの傑作「イコン」の世界が現実味を帯びてきたことを憂慮します。

 

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