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【あらすじ】
大富豪からの依頼を受けて、ヘイスティングズと共にフランスの別荘地を訪れたポアロ。だが彼らを出迎えたのは、依頼人が殺害されたという報せだった。
被害者の夫人は、2人組の暴漢が夫を拉致したと証言する。しかし犯人たちは、拉致した被害者を屋敷のすぐ隣にあるゴルフ場予定地で殺し、墓穴まで掘りながら死体を埋めずに放置するという不可解な行動をしていた。
一方のヘイスティングズは、事件の翌日に以前カレー行きの列車で同乗したアクロバット女優の少女と、思わぬ再会を果たす。物見高い彼女に請われるまま死体の安置場所を案内したヘイスティングズだが、後でその場に保管されていた凶器の短剣が紛失していることが発覚する。
さらにその翌日、紛失したはずの短剣を胸に突き立てられた浮浪者の死体が、敷地内の物置小屋から見つかった。
【感想】
クリスティー作品。まずは名探偵ポアロ物から年代順に取り上げていきます。
クリスティーの長編3作目で、ポアロ物では第1作「スタイルズ荘の怪事件」に続くもの。本来は処女作を取り上げるべきだろうが、作品としてはこちらの方がストーリーに起伏があるので取り上げた。ヘイスティングズとシンデレラ嬢(声を出して読むとディズニーランドww)の関係や、パリ警察の刑事がポアロを目の敵としてライバル関係を作るなど(レストレード警部か?)、いろいろなものが「てんこ盛り」のような感じがする。
事件は過去の類似事件との関係が疑われる。そこから導き出す真相は複雑で、過去の事件と現在の人間関係はなかなか頭に入りづらい。それでも我慢して読むと、「レストレード警部」役が容疑者を逮捕してからだんだん真相が近づいてくる。過去の事件を利用した犯行と、そこからアレンジした部分がモザイクのように組み合わさる繊細な内容となっている。中期以降のクリスティーの作風とは異なる「こなれていない」印象も受けるが、ストーリーもトリックも素晴らしいし、ミステリーとしての完成度も高い。
と、ここまで書いて何だが、実は私はヘイスティングズが語リ手の作品は余り好みでない。本作品はまさにそうだが、いやしくも殺人事件の最中に、まったく真剣さが足りない。今回は大きなミスも犯し、本来ならばポアロが(そして警察が)激怒しても不思議でないはず。同じ性格では二番煎じになるが、やはりワトスンのように、「陪審員」もってこいの人物でないと、殺人事件に対峙すべきでないだろう。
そしてもう1つ。クリスティーはホームズ物語が好きで、そこからヘイスティングズの役割を設定したのだろう。しかし、クリスティーはヘイスティングズが語りの2作目にして、ミステリー作家として自分でも想定外の成長を感じたのではないか。今回の事件の設定やトリックは(シンデレラ嬢とのさやあてを除いて)ヘイスティングズの語りには合わず、そのため折角のトリックもうまく活かし切れていないと思われた。ストーリーテラーたるクリスティーの成長は、ヘイスティングズの「丈」を大きくはみ出すことになる。
本作品以降、「歴史的トリック」を頻発するクリスティー。また「ナイルに死す」以降の、神経繊維のように張り巡らされたミスディレクションと伏線による、人間関係の反転を数々と描くクリスティー。これらはヘイスティングズの語りでは表現しきれなくなる。その兆候が本作品ですでに現れている。
そして、本作の次のポアロ物は、ヘイスティングズの語りでは収まらない傑作「アクロイド殺し」となる(但し「アクロイド」は私の手に余るため、本ブログではスルーします)。
追伸 この本の表紙ですが、はてなブログ「嵐、ゴルフ、ミステリーの日々2」の6月21日記事「続・世田谷文学館探訪『イラストレーター安西水丸展【展示編】』」に映されています(リンクは遠慮させて頂きました)。
*それにしても、処女作「スタイルズ荘の怪事件」は執筆は1916年、ようやく採用されてアメリカで出版されたのが1920年、イギリス本国での出版は翌1921年と今から100年前に話である。今でも通用する小説だが、もう100年経っているのは改めて驚きです。
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