小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

18 ボーン・コレクター ジェフリー・ディーヴァー(1997)

【あらすじ】

 国際会議の開催で厳戒態勢にあるニューヨーク。線路そばの空き地で地面から突き出している人の手を発見する。通報を受けた美貌の巡査アメリア・サックスは現場保存のために鉄道や道路を封鎖する。しかし過剰な封鎖で交通を妨げたと上司から𠮟責されてしまう。

 その日、捜査中の事故のため全身麻痺となった「鑑識のプロ」リンカーン・ライムの元に昔の同僚が訪れる。今回の事件について協力を要請してきたのだ。自分の人生に悲観している状況の中でとても捜査協力はできないと断るが、捜査資料を見て興味がつのる。今回の事件で、はた目からはやりすぎと思える現場保存を判断したサックス巡査にライムは興味を持ち、ライムの助手に抜擢する。証拠物件から更なる事件を予測したライムに代わり、サックス巡査が現場でライムの眼と手になって捜査を進めるのだが・・・

 

【感想】

 最初「全身麻痺」の主人公と聞いて、安楽椅子探偵のエキセントリックな設定かと、やや否定的な先入観を抱いたが、実際に読むとまったく違った。ホームズがコカインに手を伸ばし、エラリー・クイーンを嘆かせた「警察の科学捜査の進歩による『名犯人』の消失」問題に、果然と立ち向かうシリーズになった。

 鑑識のプロによる眼から見た事件の内容と疑問点。その疑問点を晴らす取り組み。捜査の進展を全てチェックリストにして、登場人物の読者を共有させる。そして犯人の犯行予告によるタイムリミットまでに、知恵を絞り謎を解いて現場に急行する。この犯人とライムの「知恵比べ」が何度も繰り返し、まさに「ツイストの帝王」の名にふさわしい構成になっている。そこに「もったいぶった」探偵の姿はまるでない。それでいて、事件の真相と犯人の登場シーンは本当にびっくりする。まるで映画「ジョーズ」のように、予測しないタイミングでいきなり登場してくる演出も見事の一言

 また第1作ならではの見どころもある。ライムの助手となったサックス巡査はまだ「ひよっこ」で、恐ろしい現場を見ては怯え、容疑者の悲鳴を聞けば動揺が隠せず、現場保存を求められても、被害者の救出を優先したい気持ちが勝る(これは当然だと思うが・・・・)。全身麻痺のため部屋の中から出られないライムは、自分自身と葛藤をしながらもサックスに頼らざるをえないため、少しずつサックスに妥協していく。

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     *映画「ボーン・コレクター」より

 

 寝たきりで何をするにも他人の介護が必要で、人生に悲観し真剣に自殺を考えているライム。そして警察官として限界を感じているサックス。この二人が今回の事件でめぐり逢い、最初は全く接点がなかったが、お互いを補うようになり、そしてお互いの考えが徐々に前向きになっていく。このテーマが現在は10作以上続いている「リンカーン・ライム・シリーズ」の底流をなしている。

 そしてもう一つのテーマ、「警察をも悩ます名犯人」も毎回登場する。次第にサックスもかなり有能になり、「チーム・ライム」は無敵の集団となっていくが、それでも名犯人との「知恵比べ」は、回を追うごとに過激になっていく。これだけ高い水準の作品を出し続けるのは、ある意味凄まじい。

 これだけ作品にいろいろな「ツイスト」を入れ込み、作りこんでいるが、短編でもこの流儀は譲らない。「クリスマス・プレゼント」「ポーカー・レッスン」とそれぞれの作品にも惜しげもなく「ツイスト」が入れ込まれている。

 それにしても本作品は映画化されたが、期待して見たら「残念」だった・・・(個人の感想です)。