小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

2 オリエント急行の殺人 (ポアロ:1934)

 

 

【あらすじ】

 ポアロオリエント急行に乗り、イギリスへの帰途に就く。乗客の1人、アメリカの富豪サミュエル・ラチェットは、身の危険を感じてポアロに護衛を依頼したが、ポアロは興味を示さず、彼の依頼を断ってしまう。

 翌朝ラチェットの死体が彼の寝室で発見される。死体には刃物による12箇所の刺し傷があった。

 ラチェットは富豪アームストロング家の令嬢であるデイジーの誘拐殺害犯であることが判明、事件の顛末を知っていたポアロは捜査を始める。犯人はちょうど雪で立ち往生している列車から逃げられないはずだが、乗客たちのアリバイは互いに補完されており、誰も容疑者に該当しない。

 

 【感想】

 「アクロイド殺し」とともに、中学の時ネタバレで読んだ作品。「歴史的トリック」と言われた物語を、トリックを知ってから読んだため、初読の感想は「とりあえず読んだ」(当然、作者は何も悪くありません)。

 ところが再読すると、同じネタばれで読んだ「アクロイド殺し」とは違って(ごめんなさい! m(_ _)m でもネタばれしてから読むと、会話などに味があります。)物語に引き込まれた。前半は会話も弾まず、やや多い登場人物の尋問など、定形的な捜査を淡々と進めているのみで、クリスティーらしさを感じられない。だが終盤になり物語は一変する。

 「歴史的トリック」は確かに見事で、作者のアイディアには脱帽しかないが、それだけでない。

 「リンドバーグ愛児誘拐事件」に着想を得たという事件の背景。そしてその事件に巻き込まれた犯人の苦悩を思うと、ミステリーの枠を超える読み応えがある。そして思う。この作品は、はじめに「トリック」ありきではなく、クリスティーは、この犯人の苦悩を描くことを物語の主軸として考え、その苦悩を描く手段としてあの「歴史的トリック」にたどり着いたのではないかそのために最初は淡々と登場人物を単なる紹介記事のように描きながら捜査を進めているが、それから一人ひとり、ポアロはその正体を「引っぺがして」真相に迫っていく。

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 オリエント急行を舞台にしたことも、クリスティー自身が乗車し、また雪で立ち往生した経験もあるので、このストーリーにはピッタリと思えたはず。何度も映像化されているのも、単にオリエント急行という「画像映え」した舞台だけではなく、登場人物がそれぞれ演ずるに足る「人生」を背負っているからだろう。

 歴史的な「トリック」と「オリエント急行」という華やかな舞台。初読の時はこれにすっかり惑わされて、本作品の「本質」を見失ってしまった気がしてならない。

 私は本作品の「本質」は以下と考える。ほとんどネタバレになるので、未読の方は急いで読んだあと、戻ってきてください。

 

 

↓ ここから(スマホで見る方を考慮して、敢えて反転にはしていないので注意!

 

 

 本作品の主要登場人物は12人。この12という数は、イギリスの伝統的な裁判制度の陪審員数と一致する。そして本作品は陪審員制度に対しての問題点についても触れている。それに対して「陪審員」たちは、改めて1つの犯罪について自分なりの「評決」をくだす。

 ポアロ、そして読者は、裁判官の立場でその「評決」の是非について、正面から問われることになる。