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【あらすじ】
スマグラーズ島に避暑に集まる人たち。その中で周囲に魅力を振り撒く元女優アリーナ・マーシャル。ハンサムな青年パトリック・レッドファンは、人目も憚らずアリーナといちゃついている。
アリーナの夫ケネスはまったく感情を表に出さない。
パトリックの控えめな妻クリスチンはそんな夫の姿を見てじっと耐え忍ぶのみ。
そしてアリーナが浜辺で絞殺されているのが発見される。嫉妬という動機があり、一番怪しいクリスチンは、亡くなったアリーナを嫌っている、夫ケネスの娘リンダ(アリーナとは義母と娘の関係)の証言でアリバイがある。また夫ケネスも幼馴染の有名なドレスメーカーのロザモンド・ダーンリーによってアリバイが証明された。
偶然同地に避暑に来ていたポアロは捜査を始め、「白昼にも悪魔はいる」とつぶやく。
【感想】
「地中海殺人事件」で映画化されている。「ナイル」「死海」と続いての三大「旅情」ミステリー。
避暑地で事件が「交錯」するのは「ナイル」に近いか。そのため、怪しい人物(ポアロも含まれる?)と緊張感を緩和する「息抜き用(?)」の人物が避暑地に集まっている。
避暑地に集まる人間関係はやや複雑に、言い換えれば本来有り得ない(?)集まりとなっている。魔性の女とハンサムという、役割がわかりやすい設定の、既婚者である男女がイチャイチャして、正妻と正夫(?)は我慢している構図。そこに別の人物も現れて、と三角関係が3次元になっているかのような様相を示している。
物語自体は別の事件も加わり進んでいく。その中で娘リンダの正直で、やや難しい性格を持つ描写のおかげもあり、肩の力が抜ける時もある(クリスティーは、このような仕掛けに注意が必要なケーズもあるのだが・・・)。
容疑者にはそれぞれアリバイがある。しかしこれは過去の作品のアレンジのはすと推測できる。一旦「フェイク」を入れての真相解明場面は、人間の裏側に潜む、まさに「悪魔」が引き出されたかのよう。それまでの舞台構成が一瞬で反転するのは、クリスティーならではのもの。
但し本作品は動機がよく見えなかった。実際に真相を読んでも「?」な感じは否めなかった。
この作品が発刊されたのは1941年。前年の1940年は第二次世界大戦が広がり、ドイツが快進撃を続けていた。6月にパリが陥落し、イギリスへの本土攻撃が始まる。イギリスではチャーチルが首相に就任し徹底抗戦を構える時期。スターリングラードでのドイツの敗戦は1943年1月で、まだドイツ軍の勢いが止まらなかった頃に書かれた作品である。
本作品自体は戦争の影がなく、避暑地でバカンスとやや「浮世離れ」した感じだが、本作品の前に発刊されたのが「愛国殺人」でこれは文字通り。本作品の後に発刊されたのが、ドイツのスパイを探すストーリーの「NかMか」。表立って世界大戦を意識した作品はこの2作品が目立つのみ。本作品は2作の間に書かれている。
クリスティーらしくなく、動機がいつもより見えない、そして人間の裏側に潜む「悪魔」を引き出す作品。果たしてクリスティーは、この時期にどのような心境でこの作品を書いたのだろうか。
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